2017年夏

三重合同法律事務所事務所コラム

2017年7月

2017年夏


 暑中お見舞い申し上げます。

 盛夏のなかいかがお過ごしでしょうか。当事務所では日々の業務でも憲法を暮らしの中に生かすための活動として取り組んでおりますが,社会に目を転じますと,アベノミクスのもと,大企業は空前の利益を上げる一方で,非正規労働者の現状は改善されず,むしろ格差,貧困は広がるばかりです。そのような中,安倍政権は昨年の安保法案の強硬採決に続き,思想,表現の自由を踏みにじる共謀罪を強行し,今年の憲法記念日には自衛隊を憲法に明記するとの加憲という憲法改正を進めることを表明するなど右傾化にまい進しています。一方で森友学園,加計学園など特定の学校法人への行政上の便宜供与が疑われているのに説明責任を果たさず,居直りの言動に終始しています。公私混同の安倍政権を終わらせ,憲法,人権,暮らしを守るため微力を尽くしたいと考えております。皆様のご健勝を祈念し,事務所ニュースをお届けします。


公文書の管理はどうなっているのか


 

                                                    弁護士 石坂俊雄

風子: 爺、質問があるんだけど。自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報や森本学園問題、加計学園問題について国の文書がなかったり、文書があることを指摘されると関係省庁は、確認できないと言っているけど、国は、国民の税金を使っているのに、どのような経過で税金を使ったかという文書は残す必要はないの。
爺 : 8年前の平成21年の制定された「公文書管理法」によれば、次のように書かれているよ。「公文書等は、①健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源であること、②主権者である国民が主体的に利用しうるものであるから、適切な管理・保存、利用を図ること、③国の諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務を負っていること。」(公文書管理法第1条)。
風子: すると、国は、現在及び将来に国民に説明するために、公文書を適切に管理・保存する義務があるのに、どうして文書がないことになるの。
爺 : 国は、公文書は作成していると考えられるが、時に政府に都合が悪い文書は、無いことにするのだよ。
    例えば、南スーダンでの自衛隊のPKO活動の文書は、当初は、廃棄してい無いと言いながら、その後、発見されたといって出てきたね。 また、森本学園の文書も保存期間が1年未満と定められている文書だから、国は、契約が成立した後の廃棄したと言っているね。
風子: 保存期間が1年未満の文書であれば、いつでも廃棄できるの。
爺 : ここが問題で、各省庁が保存期間を1年未満と定めれば、公文書管理法の文書管理の例外として、自由に処分できることなるのだよ。
風子: 誰が、文書の保存期間を決めるの。
爺 : 一応、政令で文書ごとに保存期間が決まっているが、すべての文書の保存期間が網羅されているわけではないね。保存期間を1年未満と決めた文書は、文書管理簿の作成義務がなく、廃棄ができるだ。ただ、どのような文書が1年未満の文書に当たるのかという定義づけがされていないので、公開されたら都合の悪い文書は、各省庁で1年未満の文書として廃棄するか、存在しても廃棄したと言えることになっているのだよ。
風子: 森本学園の文書は、国有地を売っているのに1年未満しか保存義務がないの。
爺 : 森本学園の文書は、国の財産の売却だから、その交渉記録は、将来、会計検査院の検査の対象になる文書だよ。だから、本来は、保存期間は最低でも5年のはずだが、勝手に1年未満としているので。
風子: 加計学園では、総理大臣が関係していることをうかがわせる文書が出てきて、前文部次官がその文書は本物で、それに基づいて説明を受けと発言しているのにもかかわらず、政府は、そのような文書は確認できないと逃げているよね。
爺 : 加計学園については、総理大臣から、圧力があったことをうかがわせるのに十分な文書が出てきているのにもかかわらず、政府が知らぬ存ぜぬで逃げ切るとしたら、明らかに公文書管理法に違反するね。
    政府は、現在及び将来の国民にきちんと説明する責務があるね。 公文書管理法に反することを平然と述べているような政府には、早く退陣をしてもらいたいね。
風子: そうよね。公文書は、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源であることを自覚して適切に管理してもらいたいわね。石坂写真2017夏号


韓国・見たまま・感じたまま


弁護士 村田正人

村田弁写真

 平成29年4月20日から3日間の日程で韓国のソウル市と世宗(セジョン)特別自治市を訪問しました。視察の目的は、日弁連公害対策環境保全委員会の公害紛争処理法改正プロジェクトチームの一員として、韓国の環境紛争処理法の仕組みを聞き取り、我が国の法制度に反映させることにあります。視察の成果は、階層間の騒音問題が、裁判所外のADRで解決されており、慰謝料も一覧表で定額化されていることでした。報告の詳細は、後日の日弁連報告書に譲ることにして、韓国大統領選挙の最中のソウル市内の様子をお伝えしましょう。

 ソウル市の観光名所といえば、「景福宮(キョンボックン)」ですが、正面の大通りの広場にはハングル文字を作った世宗(セジョン)大王の銅像と、秀吉軍と戦い抗日のシンボルとされている李舜臣(イスンシン)将軍の銅像があります。

 この光化門広場と周囲の道路は、朴槿恵(パククネ)前大統領の罷免を求める100万人(主催者発表)を越える民衆が埋め尽くしたところです。私たちが訪韓したときは、いまだ行方がわからない9人の捜索と真相解明を求める遺族と市民の人たちにより、セウォル号惨事追悼テントが張られていました。修学旅行中の多くの高校生が亡くなった悲惨な事故は、パク前大統領の罷免要求の背景として大きく影響しているように感じました。

 パク前大統領の不正は、友人のチェ被告に国家機密を漏洩し、また、友人のチェ被告がパク前大統領の友人であることを利用して、非営利団体に巨額資金を寄付するよう複数企業に圧力をかけた疑いですが、ことの真相は、いずれ韓国の裁判所が明らかにすることでしょう。

 翻って、我が国では、安倍首相の昭恵夫人が開設予定の小学校の名誉校長に就任して、「忖度(そんたく)」により学校開設の際の便宜供与の不正をしたと思われる「森友疑惑」や、安倍首相の友人が理事長を務めている加計学園でも、獣医学部新設で「総理のご意向」が働いたことが記録された文科省のレク(説明用)文書が公表された「加計疑惑」など、安倍内閣による国家や国家財政の私物化現象が2件も起きています。安倍首相のお友達が、いずれも「憲法改正」を唱える日本会議のメンバーであることも見逃せません。「韓国の政治は酷い」などと高みの見物をしているときではなく、足元の日本の民主主義がためされていると強く感じる今日この頃です。


加憲という名の憲法改正


弁護士 伊藤 誠基

伊藤写真 - コピー

安倍発言

 首相は,5月3日の憲法記念日に憲法9条1項,2項をそのまま残して新たに自衛隊を書き込む憲法改正を実施し,2020年は施行される年にしたいと発言しました。これまでの流れとは違っていたので驚きです。

発言の動機

 自民党の憲法改正の最大の眼目は自衛隊を公然たる軍隊にすることでしょう。しかし,どの世論調査でも,国民投票で過半数の同意を得ることは困難と予想されます。

 そのため,環境権規定をもうけるなど周辺の憲法改正をして国民を改正慣れにして最後は9条に踏み込む戦略を考えているようでした。

 しかし,時間がかかりすぎます。改憲勢力は現在は国会議員の3分の2を超えていますが,この先保障はありません。だとすれば,今のうちに何とかしたいと考えての発言になったものです。

なぜ加憲か

 加憲説は,右翼思想家の人たちからなる日本会議の幹部の提案に乗っています。1項と2項を維持すれば護憲派を刺激することなく,また国民も自衛隊に親和的になっているので憲法改正が実現できるとの判断です。

どのように加憲するのか

 日本会議の幹部氏によると,9条に3項を置いて,「但し,前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するものではない。」と規定します。この提案は,憲法の平和,人権,民主主義の基礎を一層確かなものにするという発想だとしています(日本政策研究センター「明日への選択」2016年9月号「三分の二獲得後の改憲戦略」伊藤哲夫著)

まやかし

 日本会議のメンバーは,現行憲法の平和,人権,民主主義に異議を唱えている人たちです。だから加憲は,護憲派を反対させにくくするレトリックでしょう。それと,戦力の保持を禁止し,3項に自衛隊を加えても今度は憲法の規定間に矛盾が持ち込まれるだけで,何の解決にもなりません。

自衛隊は違憲です

 現在日本の防衛費は4兆円の真ん中までいっています。毎年世界第8位をキープしています。フランスの少し下,ドイツ,イタリアよりも上です。素直に考えれば憲法9条2項の禁ずる戦力です。ご存知でしょうか。憲法学界では自衛隊は違憲というのが通説(ほとんど異論のない意見)です。

自衛隊問題をどう考えるか

 自衛隊を是としたとしても,そのために憲法を改正する必要があるのか。

仮に憲法に明記されれば,自衛隊の増強が今以上に進むことは避けられません。今でも憲法改正もせずに集団的自衛権を認める安保法案を成立させ,南スーダンに自衛隊を派遣しているくらいですから,歯止めがかからなくなります。

 一方,自衛隊が違憲だとする政権になったとしても,すぐ自衛隊がなくなるわけではありません。まず法律改正しないと廃止できません。国民が必要な範囲で存在を是認するなら,防衛費,規模を縮小する「軍縮」に向かう努力をすることだって可能です。2項があるからできることです。

戦後の教訓

 加憲説は,現行憲法の平和,人権,民主主義を望まない人たちからの提案であることを忘れてはならないことだと思います。憲法を擁護することは大切なことですが,どんな憲法であってもよいというのではなく,その前に平和主義に徹することが72年前の終戦の教訓というものではないでしょうか。


マーシャル研修報告


弁護士 森 一 恵

写真 森

第1 はじめに

 私は2月26日から3月3日まで日本国際法律家協会主催のマーシャル研修に参加した。これからマーシャル諸島で見聞した出来事をご報告させていただきたい。

第2 国会議長との面談

 2月28日の昼には,マーシャル諸島共和国の国会議長で,被爆地であるロンゲラップ環礁選出の国会議員でもあるケネス・ケディー氏と面談した。

 ケネス氏は,アメリカとマーシャル諸島共和国との核実験補償問題について,ネバタ州で行われた核実験に対する補償と比較して不公正であると語った。その一方でケネス氏は,アメリカとマーシャル諸島共和国とは兄弟の関係にあるとも語り,アメリカに経済的に依存せざるを得ないマーシャル諸島共和国の難しい立場を実感した。

第3 核レガシー会議  

 3月1日の核被害者追悼記念日当日の午後には,核レガシー会議(Marshall Islands Nuclear Legacy Conference)に出席した。

 基調講演の講演者は,元外務大臣トニー・デ・ブラム氏であった。トニー氏はマーシャル諸島共和国が国際司法裁判所に各ゼロ裁判を提訴した当時の外務大臣であった。トニー氏は,アメリカはマーシャル諸島共和国に対して核被害に関する調査の十分な情報開示を行うべきであること,被爆や故郷を離れることに直面しても前を向いて進まなければならないことを説得的に語った。

 パネルディスカッションでは,4人の被爆者による核被害の実体験が語られた。爆発音が聞こえた状況,キノコ雲が発生した状況,魚の死骸が発見された状況等,実体験を聴くことができたことは貴重な経験であった。

 ゲスト講演の1人目は,明星大学の竹峰誠一郎先生の講演であった。竹峰先生は,核被害は,認定されているビキニ・エニウェトク・ロンゲラップ・ウトリックの4環礁に止まらず,他の地域にも及んでいることをわかりやすく説明していた。

 ゲスト講演の2人目は,ビル・グラハム氏の講演であった。ビル氏はアメリカとマーシャル諸島共和国との核実験補償問題に関する177条協定(177Agreement)について,不備があると指摘した。アメリカ政府は補償問題に関して177条協定で解決済との態度をとっており,アメリカ政府に対して,新たな補償や賠償を求めるのは難しい状況である。新たな補償や賠償を求めるための適切な法律構成はないかと思案しながら,講演を聴いていた。

第4 終わりに

 マーシャル諸島は太平洋に浮かぶ,サンゴ礁が美しいのどかな島であった。このような島で67回の核実験が行われ,甚大な核被害や環境被害が発生したことに何とも言えない憤りを感じた。私はマーシャル諸島で見聞したことを,核兵器の禁止を求める取り組みに生かしていきたい。DSC_0081


無償家事労働の問題を回避した「逃げ恥」


弁護士 加藤寛崇

加藤 事務所ニュース2017夏写真

 ドラマはほとんど見ないが、昨年人気を博した「逃げるは恥だが役に立つ」(「逃げ恥」)は、原作を以前から読んでいたこともあって視聴していた。

 この作品の本来の主題は家事労働が不払労働となっている問題のことだと思っていたが、意外と十分に焦点化されないまま話が進んでいたように思う。ドラマ第10話で、結婚すればタダで家事労働に従事するのが当然だと考える平匡さん(星野源)に対し、みくりさん(新垣結衣)が発した「それは好きの搾取です」という言葉は、ようやくその主題に迫るものだったはずである。もっとも、ここで出た「好きの搾取」「愛情の搾取」という表現は一定の反響を呼んだようだが、新しい指摘では全くない。すでに1980年代には、上野千鶴子がこんなふうに述べている。「『愛』と『母性』が、それに象徴的な価値を与えて祭り上げることを通じて、女性の労働を搾取してきたイデオロギー装置であることは、フェミニストによる『母性イデオロギー』批判の中で次々に明らかにされてきた……。『愛』とは夫の目的を自分の目的として女性が自分のエネルギーを動員するための、……イデオロギー装置であった。女性が『愛』に高い価値を置く限り、女性の労働は『家族の理解』や『夫のねぎらい』によって容易に報われる。女性は『愛』を供給する専門家なのであり、この関係は一方的なものである。」(『家父長制と資本制』)

 しかし、その後のドラマの展開も原作の展開も、中途半端なものであった。最終的に、2人が共同で家庭の「最高経営責任者(CEO)」になったのが解決の形であるかに描かれるが、夫婦を家庭の「経営者」と称するのは、1950年代の第一次主婦論争にも見いだされる(関島久雄「経営者としての自信をもて―主婦は第一職業である―」『婦人公論』1956年9月号)。新奇性のある発想ではない。また、原作ではみくりさんが職を得たことで「CEO」になったのだが、家事労働が有償労働であれば、職を得て初めて「CEO」になることにもならないはずである。なにより、「CEO」になることでそれまで支払われていた家事労働に対する賃金が明確な形では支払われなくなっているのだから、当初の主題からすれば後退している。こうして、もっとラディカルな問題提起をできたはずの作品は、ひょんなことから同居を始めた男女が恋に落ちるという陳腐なストーリーで終わってしまった。

 さて、家事労働が正当に評価されないのは、司法の分野でも変わらない。たとえば、主婦が交通事故の被害に遭った場合。就労している人なら、休んだ期間に応じた休業損害の賠償請求が可能となるが(一日休めば給料一日分の休業損害として請求できる)、主婦の場合は、女性平均賃金に基づいて、休んだ期間のうちの一定割合(数十%など)でしか算定されない。しかし、通常、就労している人が仕事を休んだ場合でも、丸一日働くことが不能だったとは限らない(通院して一日仕事を休んだからといって、実際には、丸一日休む必要があったわけではなさそうなケースも少なくない。)。この不均衡も、家事労働を不払労働とする現実及びそのイデオロギーの反映にほかならない。そうなると、個々の訴訟において主婦の休業の損失をいかに訴えても、限界もある。

 かくして、不均衡の解消には、労働力の商品化そのものを問題にするほかなく、賃金制度の廃止まで行きつかなければならない。


個人情報保護法について


弁護士 村田雄介

 写真(雄介)

平成29年5月30日から改正された個人情報保護法がスタートしました。大きな変更としては、個人情報の取り扱い事業者の範囲の拡大にあります。つまるところ、今後はほとんどの事業者(法人を含む。)が個人情報保護法の義務を負うことになります。個人情報データベースには、携帯電話のアドレス帳、メールソフトのアドレス帳などファイル化している登録カード以外の電子通信機器のデータベースも対象となることに注意が必要です。

個人情報保護法で定められたルールは大きく分けるとつぎのとおりです。

まず、①利用目的の通知・公表等、②個人データの安全管理措置を実施、③第三者に提供するときの同意の取得、④トレーサビリティ(第三者情報提供の記録の作成)の確保の4点が大きな点かと思います。

いずれも多少の準備と講習等で対応可能なものですので、早目の対応が重要かと思います。個人情報の漏洩に係る損害賠償額が平成13年にはデータ1件につき1万5000円であった(宇治市住民基本台帳データ大量漏えい事件・大阪高裁平成13年12月25日)のが、平成19年には3万5000円(TBC個人情報流出事件・東京高裁平成19年8月28日)になるなど情報1件にかかる損害賠償額が増大傾向にあり、現在としては1件5万円程度ではないかとの報告も見られます。事前に個人情報の管理方法を確立することによってこれらの損害賠償請求の回避が可能となることからも早めの対応をお勧めしております。





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