2018年夏

三重合同法律事務所事務所コラム

2018年8月

2018年夏


 暑中お見舞い申し上げます。

 自民党は3月の党大会で、自衛隊、緊急事態などの4項目の憲法「改正」案をとりまとめました。これは、日本国の対外侵略の第一歩であり、いざというときに無制限に人々の人権を制約しようというものであって、到底認められるべきものではありません。

 当事務所でも皆様方に9条改憲反対の署名をお願いしたところ、1000人以上の方々からご協力のご返信をいただきました。この場を借りてご協力にお礼を申し上げます。個々の弁護士宛にメッセージが添えられているものもありましたが、いずれも、目を通しております。

 現在の情勢では、「アベ改憲」以外の改憲であっても、憲法を「改正」する必要はありません。人々の権利を守り、国家の手を縛るという憲法の根本原則を変更する憲法「改正」には常に反対していかなければなりません。

 しばらく暑い日が続きますので、お身体をご自愛下さい。


森友文書改ざんの財務省報告書は真実を語るか


 弁護士 石坂俊雄

DSC_0012風子: 爺、6月4日に財務省が提出した森友学園の14件の決裁文書を廃棄・改ざんした報告書を読んだの。
爺 : 読んだよ。報告書の内容は肝腎のところの調査がされてないね。例えば、なぜ、文書を廃棄・改ざんしなければならなかったかの動機については、何も触れられていない。安倍首相の「自分、または妻が関与していれば、首相も国会議員も辞める」と発言したこととの関連で、忖度をしたのか否かについては、調査もしていない。ひどい内容だ。
風子: 報告書の記載には、問題点はないの。 
爺 : 通常では、理解しがたいことが書いてあるね。
         佐川理財局長は、安倍首相の前記発言を受け、管財部長に安倍夫人の名前が入った書類があるか確認を求めたところ、部長は、「夫人本人からの照会はない、夫人付の職員から照会があるが、内容は特段問題となるものではない」との認識を示した。理財局総務課長は、部長の指示により、政治関係者の記載がある文書のリストを作成し理財局長に提出したら、理財局長は、「応接録の取扱は文書管理にルールにしたがって、適切に行われるように」とのことであったという。課長は、これは、政治関係者との応接録は廃棄する指示と受け止めたというのである。
    その後、国会で理財局長が森友学園との応接記録があるのにもかかわらず、「ない」と答え。国会答弁後、理財局長より、答弁内容を踏まえた文書管理の念押しが総務課長にあった。課長は、また、廃棄すべきであると指示されたと受け止めたという。しかし、管財部長は、部内職員に「廃棄せよ」とは言わず、「適切な文書管理を行うべきだ」と周知した。そして、これを受け、職員により応接録の廃棄が進められたという。
風子: これは、日本語として、おかしいわね。「適切な管理」を「廃棄」であると理解し、文書があるのに「文書がない」と理財局長が答えた後で、存在する文書の廃棄を検討し、部長は、部下に「適切な文書管理を行うべき」と伝え、部下は、それを廃棄することと理解し、廃棄してします。理解できないわ。
爺 :  そうだね。真実は、安倍首相夫人に関係する文書があったため、「ある文書」を「ない」と理財局長は答えた。そして、廃棄せよと指示したため、部下は廃棄せざるを得なかったのではないかね。
風子:  麻生財務大臣は、公文書を廃棄し、改ざんした理財局長の国税庁長官にしたことを未だ適材適所と主張しているわね。私でも知っている公文書管理法の「公文書等は、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源であること」を知らないのね。


帰還困難区域・福島県双葉町を視察


弁護士 村田正人

写真(村田2018s)

 6月17日、特別の許可を得て、福島第一原発の放射能で汚染され立ち入りが制限されている双葉町に日弁連調査団の一行として入った。首から吊るした線量計をつけて被曝線量がわかるようにした。被曝のために避難当時の状況をそのままに残す5階建ての双葉町庁舎2階には、刻刻と入る福島第一原発からの連絡事項が赤と黒のマジックで書かれた大判紙が張り出されており、原発事故直後の臨場感を伝えている。屋上に登って見ると、福島第一原発の方向には、小高い丘とその上に新興団地があり、丘裾には墓地が見える。これらを含む全部が中間処理施設の予定地となっており、環境省が6割を売買や地上権で契約済みである。環境省はパイロット事業と称してフレコンバッグの搬入と仮置き作業を先行している。庁舎を出て海岸部に向かうと平成18 年に環境省が快水浴場と認定した海辺に建つ公共の海の家があり、その3階部分までが津波で打ち抜かれガラスは破壊されたままである。さらに移動して町内のメイン商店街に行くと目抜き通りの3軒の店舗は倒壊したままで、商店街には人影はなくゴーストタウンと化している。放射能で汚染された町は、地震の跡片付けすらできていない。政府は、東京オリンピックの2020 年までに常磐線の双葉駅を再開させ、双葉インターを新設したいと言うが、放射線量が高い地域の鉄道駅の再開やインターの新設にどれだけの即効的な効果があるのだろうか。許可された時刻は午後4時45分。帰還困難区域のゲートから外に出なければならない。首から掛けた線量計は、1を示していた。午後5時になると帰還困難区域内は作業者を含め全員退去して無人の区域となる。双葉町には、放射能で汚染された家屋や土地はあるが住民が一人もいない。昼間でも不法侵入者から空き家を守るパトカーとすれ違うだけだ。子供の姿などどこにもない。ここは文明と未来が破壊された廃墟の町だと感じた。赤ん坊の泣く声も子供のはしゃぎ回る声も聞こえない。若い男女や壮年の男女も老人の姿すらない。イヌもネコもいない。中間処理施設を苦渋の選択で受け入れた町では、巨額の公費を投じた復興が始まるのだろうが、ハコモノの建設だけで復興はできるのか。安心安全の他の町に移住して過ごしたそれぞれの家族の7年は大きい。復興とは、未来を担う子供達が安心して住める町にすること、それ無くして本当の復興はないと感じた。そして、原発事故の再発の恐れがあるにもかかわらず原発事故はもう起きないとして再稼働に邁進している政府の責任は極めて重く、これを止めることができない司法の責任も無視できないと感じた視察であった。


足立美術館で思ったこと


弁護士 福井 正明

GEDSC DIGITAL CAMERA 自由法曹団5月集会の後、 久しぶりに足立美術館を訪ねた。一度では意味が分からなった絵も二度目には分かるようになると感じる。
 足立未術館の収蔵品は極めて多数である。日本画家の作品の所蔵で知られているが、とりわけ横山大観の作品が有名である。その作品「紅葉」(1931年)は、秋色を赤や黄色の鮮やかな色彩で描いていて大観らしい代表作の1つである。
 「山海二十題」のうち、「雨霽る」「海潮四題・冬」(1940年)なども大観の代表作であり、作品の売上金を陸海軍に寄付したことでも話題になったが、作品自体は、大観がそれまで描いてきた日本の海山の美を描いたものである。戦争前夜を反映してか、前出「紅葉」に比べると、背景が暗い。大観が富士を描いた美しい絵もいくつか展示されていた。富士は大観の定番である。北斎の「富嶽三十六景」のようだ。しかしその中で、富士山頂の左側に赤い太陽を描いた「神国日本」1942年(昭和17年)はどうか。
 実際の富士山周辺において、このような位置に、赤い太陽が昇るのを見られる場所があるのだろうか。写実ではなく創作だとしても、地球は右回りに自転しているから、太陽はどこの国にも東から昇る。よって、何をもって神国の証しとするのかが不明だ。この作品が発表された前年の1941年12月8日には、日本軍はハワイ島を奇襲し、大戦果を挙げたと喧伝していたから、それに触発されたのかもしれない。この作品は国家神道のイデオロギーが前面に出すぎて、自然を愛し美しい日本の風景を描く大観の絵の作風の原点からはかけ離れている。ままある駄作の一つと思う。
 残念ながら、これら足立美術館所蔵の作品を見ただけでは、大観の作風の経時的変化を感じ取ることは難しいように思った。
 東京国立近代美術館は、長期に亘る大観の作品を所蔵しており、作風の経時的変化を鑑賞するにはよい場所である。
 大観が上記「神国日本」を描いた1942年の6月7日、日本海軍はミッドウェー島周辺海上でアメリカ海軍と交戦し、米軍艦載機の攻撃を受けて主力空母4隻全部を撃沈され、海軍の攻撃力は壊滅状態となり、太平洋上の制空権を完全に失った。
 1944年(昭和19年)、大観は「南冥の夜」を描いている(東京国立近代美術館蔵)。この絵は、それまでの画風とは打って変わった異様な景色だ。冥い海に波高く、椰子の葉が映る島も冥く、絵の左方上空には雲間に白色の球体が多数描かれている。
 ミッドウェー海戦の2か月後(1942年8月)、日本軍はガダルカナルから多くの戦病死餓死者を出して退却を余儀なくされ、南部、中部太平洋全域で攻勢に転じたアメリカ軍に対し、日本軍兵士は補給のない中、絶望的抵抗戦に入った。そして、敗北につぐ敗北。追い詰められた日本軍はジャングルの中で戦病死者、餓死者多数を出した。さらに、アメリカ軍は1944年6月から、サイパン島の攻略を開始し、3か月の上陸掃討戦の間、日本軍も島民も島の北部においつめられ、多くの者が断崖から身を投げたりして犠牲になった。南の島のこれらの惨状は、大観も聞いていただろう。であるから、この海は冥く、島も冥いのである。白球は戦病死餓死あるいは玉砕した者の魂であろうか。
 それまで戦争の実態を見ないまま、日本画壇を代表する画家として、日本の風景の美を描き、収益金を軍に寄附して戦意を鼓舞して来た大観にとって、いくら寄附しても太刀打ちできないほどの米軍の圧倒的兵力に包囲され、補給も退路も断たれた中部南太平洋の島々の多数の同胞の絶望的抵抗戦の凄惨な結末を知り、大きな衝撃を受けたであろう。
 この時、大観の心に去来した、沈痛な思い。まだ太平洋周辺の各地に残る同胞の運命の暗い見通しがなどが、悔恨の念とともに正直に描かれているように思う。
  大観の戦後の作品には、大観らしい海山を描きながら、イデオロギーとは一線を画した作品がある。
 1952年(昭和27年)の「満ちくる朝潮」(三重県立美術館蔵・但し、展示は限定された期間)は、早朝の薄い光の中で白砂青松の浜に、沖の方から朝潮が波の列をなして満ちくる作品である。進みつつある戦後復興を波になぞらえ、新生日本が復興し、平和な朝を迎えることを祝う気持ちを象徴している。
 大観の一番いい作品はこの絵ではないだろうかと思っている。
 機会があれば鑑賞をおすすめします。


安倍9条改憲NO!


弁護士 伊藤誠基

写真(伊藤2018s)

今やらないと間に合わない3000万署名

 安倍首相は,森友・加計学園問題で内閣支持率が不支持率を下回る状況が続いていても,改憲推進の立場を変えません。

 2020年には改正憲法を施行すると公言していますので,そのためには今年中に国会で発議し,来年初めには国民投票にかけるスケジュールでいかないと間に合わないと言われています。

 そのため,当事務所では緊急に安倍改憲NO3000万署名を依頼者の皆様にお願いしてきました。予想していたより多くの方々から署名をいただきました。責任をもって集約団体に請願署名として送付させていただきました。

中には自ら多数の署名を集めてくださった方,短歌を添えて署名を送っていただいた方など関心の高さがうかがえ,署名運動をしていてこれほどの反響があったことは過去記憶にありません。

改憲,護憲いろいろ議論があっても,憲法9条改憲に関しては未だ国民の多くは否定的であると,個人的ながらの感想です。

9条改憲自民党案の落とし穴

 自民党は既に改憲の大枠を決めています。憲法9条に関しては,憲法9条1項(戦争放棄),2項(戦力不保持)はそのままにして,自衛隊を憲法に明記(9条の2)する加憲という案が有力です。

 災害救助で頑張っている自衛隊員の労に報いるためだとか,いかにも同情を引きそうなスローガンで誘導しています。

 あるいは,北朝鮮のたびたびのミサイル発射にかこつけて,Jアラートで発射の警告を鳴らすなど,戦時中の空襲警報もどきの演出をして危機感を煽り立ててきました。早朝の警報を聞いたとき,皆さんいかが思われたでしょうか。警報時にはミサイルは既に日本のはるか500キロ上空をかすめて5分も経過していたといいます。

 北朝鮮の「脅威」はもとは米国に向けられたもので,その米朝も6月12日シンガポールで朝鮮半島非核化の宣言を成立させました。

 さらに昨年6月核兵器禁止条約が成立し,国連加盟国の3分の2にあたる122カ国が賛成しています。世界の趨勢は武力ではなく,対話の追求による安全保障に向かっています。

 緊張緩和の時代に憲法9条を改正して自衛隊を明記することは大儀名分を欠いています。

安倍首相は自衛隊を明記しても自衛隊の役割は変わらないと発言していますが,信用できるでしょうか。

 したたかなトランプ大統領は,日本の輸出品に高関税を課すだけでなく,高額な武器を買わせようとしています。9条を改正すれば,無用な武器をもっと買わされ,防衛費いや軍事費はますます膨張していくでしょう。自衛隊の任務も,海外展開に重きが置かれることは目に見えてます。

 9条改憲はそういう日本にしてもよいのでしょうかという問いかけであることを見落とすべきではないと考えます。

改憲発議させないために

 憲法改正にはまず国会で国会議員の3分の2以上の賛成で発議することが必要です。改憲自体に賛成する政党単位の頭数ではこの要件を満たしていると言われています。

しかし,9条改憲は,第二次世界大戦で海外侵略し,また300万人もの自国民を戦死させた日本の軍事政権への反省に立って成立した日本国憲法の真髄を根底からひっくり返してしまうことに思いをいたせば,一番やってはいけない暴挙ではないでしょうか。

そう考えれば,9条改憲は政党,政派にかかわらない問題ですから,9条改憲を許さない世論が形成できれば国民の力で必ず阻止できると期待しています。


NPT再検討会議準備会合,関連サイドイベント報告


弁護士 森 一 恵

第1 はじめに

 私は2018年4月27日から5月2日まで,ジュネーブにある国連ヨーロッパ本部で開催されたNPT再検討会議第2回準備会合と関連サイドイベントに参加した。 これから会議等の状況について,ご報告させていただく。

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 国連広場の壊れた椅子

第2 NPT再検討会議準備会合について

 私は会合のうち,4月30日と5月1日の会合を傍聴した。核兵器禁止条約(TPNW)採択後の準備会合であり,どのような議論がなされるか注目していたが,核兵器禁止条約に触れた発言は,私が聞いた限りでは,メキシコの代表が,核兵器禁止条約において核実験も禁止した趣旨をNPT体制においても重視すべきと発言していた程度であった。核兵器禁止条約(TPNW)とNPTとの関係について,踏み込んだ議論がなされていなかったことは残念であった。

 第3 関連サイドイベントについて

 他方,関連サイドイベントでは,テーマごとに熱心な議論がなされていた。

1 アボリッション2000(Abolition2000)の年次総会

 4月28日の午前9時から午後5時頃までジュネーブ市内のビル(仲間の家,Maison des Associations)で,アボリッション2000の年次総会が開催された。年次総会ではあるが,誰でも出入り自由である。会議に参加する際には自己紹介(氏名,国籍,所属団体,一言の抱負)を行うことになっているが,世界各国から,老若男女を問わず参加していた。会議では設立宣言が読み上げられた後,イベントの情報,部会報告,非核地帯に関する議論,中東情勢等,熱心な意見交換がなされた。

2 イギリス・ドイツ・フランス・韓国4カ国合同のサイドイベント

 4月30日午後1時15分から午後2時30分まで,国連のミーティングルームで行われた「北朝鮮の核の課題を講演する(NPT addressing the North Korea`s nuclear challenge)」というイギリス・ドイツ・フランス・韓国4カ国合同のサイドイベントを傍聴した。4カ国合同のサイドイベントでは,北朝鮮が核・ミサイル実験の停止を表明したこと,4月27日に韓国と北朝鮮との南北首脳会談で板門店宣言が合意されたこと,アメリカと北朝鮮との間で米朝首脳会談が行われることについて,歓迎する意向が表明された。4カ国合同のサイドイベントは,北東アジアに属する日本にも関わりのある話題であるだけに興味深く傍聴した。

3 バーゼルピースオフィス・IALANA・アボリッション2000ワーキンググループ合同のサイドイベント

 5月1日午後1時15分から午後2時45分まで,国連のミーティングルームで行われた「核兵器と人権法,将来の世代(Nuclear weapons and the law on human rights and future generations)」というバーゼルピースオフィス・IALANA・アボリッション2000ワーキンググループ合同のサイドイベントを傍聴した。サイドイベントでは,核兵器の違法性・非人道性,環境破壊,人類の生存を脅かすことが指摘され,「将来の世代(future generations)」の健康を守る必要性が議論された。

 第4 終わりに

 今回,NPT再検討会議準備会合,サイドイベントに参加して「核兵器のない世界」の実現は,全世界共通の願いであることを改めて実感した。

  私は法律家として今後も粘り強く,唯一の戦争被爆国である日本政府,アメリカを含めた全ての核保有国及び核依存国に対し核兵器禁止条約(TPNW)の趣旨を真摯に受け止め,条約に加入するよう働きかけていきたい。


正社員と契約社員との「不合理」な格差を禁じる労働契約法20条


弁護士 加藤 寛崇

写真(加藤2018s)    2013年4月から施行された改正労働契約法20条では、正社員のように期間を定めずに雇用された無期雇用労働者と、非正規の契約社員のように期間を定めて雇用された有期雇用労働者の労働条件の違いが、業務の内容、業務内容や配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して「不合理と認められるものであってはならない」と定めている。

 この規定の適用をめぐって争われた2件の裁判で、2018年6月1日、最高裁が判決を言い渡した。判決では、正社員にのみ諸手当を支給し有期雇用労働者に支給しないことについて損害賠償請求を一定程度認めたが、他方で、定年後再雇用の有期雇用労働者については格差を広く認めているし、なにをもって「不合理」と評価するかも曖昧で、問題が残る。なにより、法律は「不合理」な格差を設けることを禁止しているのだから、素直に考えれば、正社員との労働条件の違いが不合理であれば、有期雇用労働者の労働条件は正社員と同じになるとすべきなのに、そのような効力は認めず、あくまで損害賠償請求を認めるにとどめた点でも格差是正の実効性を損ねる。

 更に言えば、雇用主が法律の定めるルールに違反しているのに、金銭賠償さえすればそれでよいというのでは、争われたケースだけ支払に応じればよいことになり、全体としての是正にはつながりにくい。弁護士は「それが普通」だと悪慣れしてしまっている面も否めないが、もっと厳しく処罰もすべきものである。帝政ロシアの弁護士だったレーニンは、1897年に述べている。「法律のなかに工場主による法律の不履行に対する特別の罰則がないのはおどろくべき不公平であって、わが国の政府ができるだけ長く法律を適用しないで放っておこうと欲しており、法律に服するよう工場主に厳重に要求する気がないことを、端的に示している。」(『新工場法』)。1世紀以上を経た日本国でも、事情はさほど異ならない。

 そこから、次のような教訓が引き出せるという点でも同様である。労働者のための法律を真に履行させるには、労働者自身の取り組みが必要である。

「今ロシアの政府は、この古い策略をくり返しながら、労働者がこれに気づかないことを希望している。だが、このような希望には根拠がない。新しい法律が労働者に知られるや否や、彼らはみずからその履行を厳重に監視するようになり、それのいささかの違反も許さないで、法律の要求が果たされるまでは作業を拒否するであろう。……こういう監督なしには、法律は履行されないであろう。」(同上)


相続税の申告期限と配偶者税額軽減措置の適用について


弁護士 村田雄介

  相続が発生したときに,相続税の申告が必要ですが,遺産分割の手続きや配偶者税額軽減措置との関係については?というところが多いです。そこで,今回は相続税の申告期間と配偶者税額軽減措置について少しだけお伝えします(詳細は省きますのでご了承下さい。)。

1 原則的な相続税の申告期間

  まず,相続税の申告期間は,相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内とされています。とりあえず,亡くなった日から10ヶ月以内に申告をしとけば問題はありません。

2 遺産分割ができていない場合

  遺産分割協議等が終わっていない場合は相続する遺産の内容が不明で申告ができないじゃないか,という疑問があるかと思いますが,この場合でも,相続税の申告をしなくてよい,ということにはなりません。遺産分割協議等が終わっていない場合には,法定相続分に従って取得したものと仮定して相続税の申告をする必要があります。

  夫が亡くなり,法定相続人が妻と子供2人の場合は,妻は2分の1,子供らはそれぞれ4分の1を取得したと仮定して相続税の申告をする必要があるということになります。当然,その申告の際に,相続税を納付する必要があります。

3 遺産分割協議等が死亡日から10ヶ月を過ぎた後に決着した場合

  では,その後,遺産分割調停や審判が終わったが,相続税の申告内容と違う内容で決着した場合はどうするか,というと,決着してから4ヶ月以内に修正申告をして,不足分の相続税を納付したり,超過分の相続税の払い戻しを受けることになります。

4 配偶者の税額軽減措置を受ける場合

  配偶者の税額軽減措置を受ける場合には,配偶者が相続する遺産が確定していることが必要ですので,分割ができていない場合は,とりあえず,上記の法定相続分に従った税務申告をしたうえで,申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月)から3年以内に修正申告をする必要があります。もっとも,3年以内に調停等が成立しない場合は,申請期間延長の申請をすることによって,申告期間を延長させることもできます。

  なお,配偶者は,1億6000万円までは非課税(税額軽減)となりますが,あくまで相続税の申告をすることが必要です。相続税の申告をしないと配偶者の税額軽減を受けることはできませんのでご注意ください。





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