伊藤 誠基の記事一覧

三重合同法律事務所事務所コラム

伊藤 誠基の記事

防衛費が急増中

2024年1月1日

弁護士 伊藤 誠基

世界第3位の軍事大国に

 歴代自民党政権は、防衛費をGDP(かつてGNP)の1パーセントを超えないよう予算を決めてきました。それはなぜか、憲法9条で戦力となる軍隊を持つことができないという縛りがあるので、抑制する必要があったからです。自衛のための最低限度の実力装置は許されるとの解釈で憲法との折り合いをつけてきました。

 それでも、戦後の高度経済成長に伴ってGDPが増大していきますので、防衛費は先進国並にアップしていきました。2022年度では世界第10位、それ以前では第8位にまで上り詰めたことがありました。

 ところが、岸田政権は、5年後にはGDPの2%まで引き上げることを閣議決定し、防衛費を一挙に大幅増額(倍増)する方針を決めてしまいました。

 GDPの2%というのは西欧諸国の軍事費の目安になっているものの、絶対額で比べると、アメリカ、中国に次いで世界第3位の軍事大国になることを意味します。


安保三文書

 政府は2015年安保法を改正し、集団的自衛権を行使できるようにしました。集団的自衛権は、自国が他国から攻撃を受けたときでなくとも、同盟国(アメリカ)が攻撃を受けた場合でも、自衛隊を出動させることが可能になります。専守防衛のための自衛隊が同盟国と一緒になって他国で戦争できるようになるということです。

 これまで日本は、まがりなりにも、専守防衛を国是としてきたので、攻撃的兵器は持たないできました。例えば、自衛隊は航空母艦を持っていませんし、外国の領土を攻撃するミサイルは持っていませんでした。

 航空母艦というのは、海上移動して戦闘機で攻撃することを想定した軍艦であり、専守防衛の概念では説明できないものです。

 ところが、集団的自衛権はこの枠を取っ払うことになります。 安倍政権から引き継いだ岸田政権は、安保法で下地ができた集団的自衛権を更に押し進めるため、2022年12月安保三文書と呼ばれる国防戦略を示した文書を改訂しました。敵基地攻撃能力を保有することがうたわれています。専守防衛から逸脱するという批判が起こり、反撃能力と言い換えをしましたが、実質は変わりません。また、防衛費を5年間で43兆円もの増額をするとしました。


文教科学振興費との比

 防衛費の突出がどの程度か、例えば、文教科学振興費、つまり教育関連費と比べると理解し易いです。

 2015年度予算では、教育関連費は5兆3千億円、防衛関係費は4兆9千億円でした。その後も両予算はほぼ均衡し、むしろ防衛関係費は若干下回る程度でした。

 令和5年度予算概算要求では、省庁別予算になりますが、文部科学省予算が4兆9千億円に対し、防衛省予算が5兆3千億円と逆転しています。令和6年度概算要求では、文部科学省予算が5兆円に対し、防衛省予算が7兆7千億円とその差は歴然です。

 教育科学予算を削ってでも、防衛費を増大させていく、それが岸田政権、自公政権の姿勢であるということをしっかりと見ていくべきだと思います。


安全保障環境の変化

 ロシアがウクライナの侵略戦争を始めて今年で2年経とうとしています。また、昨年はハマスとイスラエルの戦争がはじまりました。日本の周辺でも中国が尖閣や東シナ海で威嚇的行動をとったり、台湾への軍事進行を否定しなかったり、北朝鮮のミサイルの発射などもあり、安全保障環境が変化したと言われています。

 岸田政権はこれを口実に、防衛費を大幅増額し、アメリカの要求に応えて共同軍事行動をとるための準備を進めています。

 武力には武力で対峙するということのようです。

 しかし、軍事力をいくら強化しても、完璧に国土を防衛するなどということはおよそあり得ませんし、かえって相手国との間で軍拡競争が過熱し、危険極まりない国際環境になることは明らかです。

 しかも、我が国の食料自給率は低く、エネルギーの大半をロシアを含めた海外に頼っているので、戦時体制をとることなど不可能なことです。


戦争の被害者は誰か 誰が得するか

 日本国憲法によると戦争は国権の発動によるものとされています。国権を担うのは国民が委託した政府です。その政府が始めた戦争によって、誰が一番傷つくのかを考えると、戦争当事国の市民であったり、駆り出された兵士、とりわけ若い人たちです。政府は愛国心を鼓舞するだけで、自らは戦地に赴くことはないのです。

 戦争に兵器は付き物です。軍需産業は潤います。日本政府はアメリカからミサイル、戦闘機を爆買いさせられています。戦争は一般市民が傷つき、その代償で外国の軍需産業を潤すリアルな現実を忘れるべきではないということを訴えて、正月ではありますが、重い課題の記事とさせていただきます。今年も宜しくお願いします。

以上


今こそ再審法の改正を!

2023年8月20日

弁護士 伊藤 誠基

再審法改正の機運が盛り上がっています

 再審法とは、刑事裁判で有罪が確定しても、新しい証拠が発見され、無実の罪(えん罪)であったことが明らかなった場合、それを救済するための刑事裁判の手続法を言います。  現在の法律では僅かな条文しかなく、裁判所も手探りで対応しているのが実情です。しかし、それ以上に不利益を受けているのは当のえん罪被害者です。

 今年に入ってから立て続けに再審開始が支持された事件が2件ありました。元プロボクサーで、味噌製造会社の専務一家4名を殺害したとして死刑判決を受けていた袴田巌さん、滋賀県日野町で酒店経営の女性が消息を絶ち、他殺体で発見された事件(日野町事件)で無期懲役の有罪判決を受けた阪原弘さんです。阪原さんは再審請求中お亡くなりになり、ご遺族が引き継いでおられます。

 これらの再審事件を通じて再審法の不備が指摘されるようになりました。日本弁護士連合会では、昨年再審法改正実現本部を設置し、今年から全国の弁護士会で法改正のための運動に取り組むよう支援を強めています。


再審法の何が問題か

 再審法というのは、無実の罪を認定して、えん罪被害者に無罪判決を下すという手続きではありません。あくまで裁判をやり直すかどうかを決める手続きで、やり直し(再審開始決定)が決まれば、本格的な刑事裁判が行われ、そこで無罪判決を獲得することが必要です。しかし、実際上は、再審開始決定が出ればその後の裁判で無罪判決が下されます。

 ところが、現状の再審法には、二つの欠点があると言われています。

 一つは、証拠開示の規定が存在しないことです。再審開始には新しい証拠を提出することが必要です。ところが、えん罪被害者側で発見することは大変難しいことです。一方で、警察や検察などの捜査機関は、裁判所に提出した証拠以外にも手持ち証拠が多数存在していることがあります。これらの証拠の開示がなされると、新たな証拠の発見に大きな威力が発揮されます。日野町事件では証拠開示で捜査機関による不正が発見され、再審開始決定に大きな影響を与えました。

 もう一つは、えん罪被害者が時間をかけて再審開始決定を獲得しても、検察官が不服申し立てして、上級審で争うことができることです。上級審でそれが覆り、何度も再審請求を繰り返すという事態を招きます。名張毒ぶどう酒事件では、2回の決定で再審が支持されたのに未だ決着をみていません。袴田事件でも、検察官の不服申立てによって、2014年に再審開始決定が出たのに、未だ継続中です。検察官の不服申立てを封ずることが非常に重要になってきます。


再審法改正の弁護士会決議

 日本弁護士連合会では、1959年から再審支援に取り組み、34件の支援事件のうち18件につき再審無罪が確定しています。

 2019年には人権擁護大会で法改正を求める決議、今年に入ってからは、2月に法改正意見書、6月の定期大会では速やかな改正実現を求める決議など、矢継ぎ早に改正運動に取り組んでいます。

 また、我が三重弁護士会では、今年5月の定期総会で改正を求める決議をし、7月22日には市民集会を開催し、名張毒ぶどう事件のドキュメンタリー映画(主演仲代達也、樹木希林、寺島しのぶなど)を上映し、講演では大崎事件再審弁護団の鴨志田祐美弁護士に登壇していただきました。

 弁護士会のほか、地方自治体の議会でも決議をいただいているところが増えており、注目すべき立法運動に発展しています。


久居再審事件

 私たちが取り組んでいる強盗殺人事件のえん罪被害者である濱川邦彦さんは、第三次再審請求をしています。証拠開示を求めていますが、未だ実現していません。濱川さんは35歳の時逮捕され、還暦を超えました。

 大崎事件のえん罪被害者である原口アヤ子さんは、6月5日福岡高裁宮崎支部で再審が認められませんでした。過去3回も再審開始が支持されているのに、検察官の不服申し立てで延々と再審が続いています。原口さんは95歳です。

 えん罪被害者がどんどん高齢化している中、時間的猶予はありません。一日も早く国会で再審法が改正されることを求めます。

以上


憲法が危ない!

2023年1月10日

弁護士 伊藤 誠基

改憲議席に達す

 昨年7月の参議院選挙で憲法改正に賛成する政党の議席数が3分の2を超えました。このままいきますと戦争放棄を定めた憲法9条が国会の発議により改憲の手続きに乗ってしまうという危機を迎えます。

 国会の発議があっても、国民投票にかけられるのでそこで食い止めることは可能です。だけど実際には国民投票で否決させることはとても難しいことです。

 ですから、発議そのものにストップをかけることが重要なこととされています。

ロシアのウクライナ侵略の影響は

 ロシアのプーチン大統領は、昨年2月ウクライナへの侵略戦争を始めました。

 政府はこれに乗じて、敵基地攻撃能力の保有、軍事費のGDP比2パーセント実現など大軍拡の議論を進めています。

 ウクライナの現実は明日の東アジアとばかり、危機感を煽るような言説がまことしやかに叫ばれています

 ウクライナ問題を受けて、防衛費増額はやむなしという意見が多くなっているような一部世論調査もあります。

 これも9条改憲の危機の要因となっています。

今こそ9条の出番です!

 防衛費はGDP1%、非核3原則、航空母艦など敵基地攻撃を前提とする武器は保有しない、集団的自衛権は認めないというのは歴代自民党政権がまがりなりにも憲法9条があったからこそとってきた防衛の基本政策のはずでした。

 そのため、あのベトナム戦争では自衛隊員がベトナムに派兵されずに済みました。9条の御蔭でアメリカの要請に応じて海外派兵せずに済んだのです。

 ところが、安倍政権は2015年安保法改正で改憲手続を経ずに集団的自衛権を一部容認し、敵基地攻撃能力保有の議論を展開しはじめたのです。

 しかし、9条は厳然として存在しています。いかに選挙で選ばれた国会議員によって成立した政権であっても、憲法の制約を受けなければならない立場にいます。

 憲法前文は、戦争は国権の発動によるものだとしています。戦争を起こすのは政府なんです。それを起こさせないようにわっかをはめたのが9条です。これは国民が政府に課した足かせです。

 私たちは改憲議論の前に今こそ声高に9条を守れと政府を追い込まなければなりません。前の大戦の教訓を結実させたのが日本国憲法だったのですから、同じ道を歩ませないようにするのが今に生きる私たち国民の責務だと思います。

改憲はやっぱり駄目

 そうはいってもロシアだけでなく中国の軍事力も心配だし、北朝鮮のミサイルも脅威だと考えている方々も大勢いることも事実です。

 しかし、一方でこういう考え方があります。

 中国や北朝鮮が本当に日本を侵略するようなことがあるのでしょうか。中国からは過去モンゴル帝国が鎌倉時代長崎に侵入しようと試みたが失敗したことがあるだけです。朝鮮半島からは攻められたことはなく、逆に豊臣政権時代と昭和年代こちらが侵略したくらいです。

 現代に限っても、尖閣諸島や竹島で国境問題で緊張関係があるといっても、侵略の危機があるとは言えません。北朝鮮のミサイルは対米戦略の一貫で日本を狙ったものではありません。中国は国連の常任理事国、北朝鮮も日本と国境はなくとも、国連の加盟国です。日本を侵略する大義は微塵もありません。日本はウクライナではありません。

 ところが、9条を改正し、集団的自衛権の行使としてアメリカと軍事的に歩調を合わせれば、これらの国の敵国になりかねません。

 どちらが危険なのかよく考える必要があります。

自民党は統一協会に牛耳られている

 安倍元首相の銃撃事件で自民党と統一協会との深い関係が一挙に吹き出てきました。

 統一協会はダミー会社を介在させて霊感商法を推進し、あるいは信者をマインドコントロールして高額献金させ、家庭を破壊する反社会的集団です。世界平和統一家庭連合と名称変更していますが、実態は同じです。

 外国に本部のあるカルト宗教団体が多数の自民党議員に食い込んで、運動員として、秘書としてかかわり、自らの野望を実現しようとしていることが社会問題となっています。

 統一協会は北朝鮮政府と深いつながりがあると言われており、自民党の改憲案は統一協会の影響を受けていると噂されています。

 政府は統一協会との関係を切ろうとしているようですが、その関係は歴史的に古く、自民党のDNAになっています。

 改憲などもってのほかで、自民党自らが調査し、国民の納得を得るまで改憲を封印するのが筋です。

 今だからこそ改憲発議にストップをかけるべきです。


消費税を憲法から考える

2022年8月17日

弁護士 伊藤 誠基

消費税の使われ方

 政府は、消費税は社会保障費の財源と言っています。本年度予算では、国に入る消費税32兆円は年金、介護、子育て支援に投入されるかのような説明です(財務省HP)。

 消費税法でも「年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。」と定めています。

 ほんとうにそうなら、消費税が上がっても福祉に使われるのであればそれは結構なことです。

 しかし、ことはそう単純なことではないようです。

 まず、消費税収入も国の一般歳入に入ります。社会保障用として別枠でプールされるのではないのです。お金に色は付いてません。

 消費税導入時から税率が上がってきた現在までの間、社会保障費は消費税の増額分ほど増えていません。この間法人税が大幅に減っています。つまり、消費税は法人税(特に大企業)の代役となっているのです(全国商工団体連合会HP)。

インボイス制度

 インボイスとは、請求書に適正な消費税率や税額を記載させる制度です。来年10月実施予定です。課税業者は申請により登録番号を取得し、請求書に記載することになります。

 この制度が導入されると、例えば、製造業者が消費税を納税するとき、材料納入業者から適格請求書(インボイス)の発行を受けないと、売上消費税から材料納入業者へ支払った消費税を控除して支払うことができなくなります。

 事業者の年間売上額が1000万円以下なら消費税の納税が免除されています。インボイス制度のもとでは、免税業者は適格請求書を発行できないので消費税納税業者から相手にされなくなります。それでやむなく課税業者として登録番号を申請しなければならなくなるのです。

 フリーランス、一人親方など零細の個人事業者が課税を強いられるという、弱い者いじめがインボイス制度の実際です。

ウクライナ

 政権政党やこれに追随する一部野党は、ウクライナ問題に乗じて、自衛隊を憲法に明記するなどの憲法改正を一層推し進めるようとしています。

一見消費税とは関係なさそうですが、憲法改正の勢いをかって防衛費を倍増することを狙っていますので、その財源をどうするのかということが問題となり、消費税が無縁ではいられなくなります。

 消費税は、ほんとうは国の借入金返済(国債償還)に多くが使われていると言われていますので、防衛費倍増のため赤字国債を乱発し、その穴埋めに消費税率を20%以上にもっていくことだってありえます。

消費税は暮らしを破壊

 政府の言う「社会保障のための消費税」というのは、実態は大企業の減税財源であったり、国の借入金返済の原資であったり、逆累進性といって、低所得者でも高所得者と同率の間接納税を強いられる不公正税制です。防衛費を倍増すれば、その財源にも充てられる可能性がある、あえて言えばとんでもない税制です。

 暮らしを守り、全ての国民の幸福を追求する権利を保障し、平和のうちに生存することを保障した日本国憲法の精神に反します。

 消費税とインボイス制度の廃止の声は上げ続けていきたいものです。


死刑制度の廃止を求めます

2022年1月1日

弁護士 伊藤 誠基

死刑制度廃止のための動きが活発化

 今、弁護士会を中心に死刑制度廃止に向けた動きが活発化しています。

 ところが、世論調査をすれば、日本では死刑制度に賛成する意見が多数となっています。

 殺人罪など重い罪で死刑判決を受けた人がえん罪を訴えている場合などでは、多くの方々は安易に死刑にすべきではないと考えるでしょう。

 他方、近時の集団殺人事件などのニュースを目にすると、凄惨な犯行に身震いし、犯人は死をもって償うべきだという意見が多くなるのももっともなことです。

 弁護士の間でも、死刑制度を廃止することに強く反対する人たちがいます。

 ではなぜ世論とは逆の動きが出てきているのでしょうか。

数々の死刑制度廃止決議

 日本弁護士連合会では毎年人権擁護大会を全国各地の弁護士会で持ち回りで開催しています。2016年10月福井市での大会では「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を決議しました。

 これまでは死刑制度を考えるというスタンスで検討を重ねてきましたが、この宣言により初めて死刑制度を廃止するという方向に舵を切っていくことが確認されました。

 これを皮切りに各地の弁護士会でも死刑制度廃止の決議が相次いでいます。

 現在確認されているところでは、滋賀、宮崎、札幌、大阪、島根県、埼玉、福岡県、東京、広島、愛知県、仙台、神奈川県、東京第二の13弁護士会です。

  大都市の弁護士会の大半は決議を挙げているわけですが、全都道府県の弁護士会までには及んでいません。当地三重弁護士会もその一つです。

 それだけ法律家の中においても苦悩があることを物語っています。

 しかし、それでもなお、死刑制度は廃止すべきだと考えます。

冤罪事件は絶えない

 殺人罪などの重罪は今では裁判員裁判といって、一般市民から抽選で選ばれた裁判員が裁判官と一緒に審理することによって司法に参加する制度があります。時には死刑判決が下される場合があります。

 それでも、神ならず人が裁きますので、裁判官であろうが、一般市民であろうが、冤罪を確実に防ぐ手立てはありません。

 無実の人が死刑になる恐れは死刑制度がある以上避けられません。

 実際にも、過去死刑確定事件で再審無罪となった事件は4件あります。

 最近では、死刑判決を受け確定した袴田巌さんが再審請求を起こし、いったん再審開始決定を受けながらも検察側の抗告で争いが続いている再審事件があります。

久居事件の取り組み

 私自身、平成6年三重県内で発生した2件の強盗殺人事件で一審津地方裁判所で死刑判決を受け、平成19年最高裁で確定した濱川邦彦さんの死刑再審事件(久居事件)を担当しています。

 濱川さんは逮捕時から一貫して無実を訴えておりましたが、共犯者とされる人物の自白により有罪認定されてしまったものです。共犯者の自白で有罪になりその後無罪となった事件は過去何件か報告されています。

 久居事件では現在でも共犯者の自白の信用性を崩すための証拠を集め続けています。その間死刑が執行されてしまえば取り返しがつきません。

 犯人が罪を認めている場合でも、死刑にしてしまえば、事件の真の背景など検証する余地がなくなってしまいます。重大事件であればあるほど死刑で全てを終了させてしまってよいのでしょうか。

国際的潮流は死刑制度廃止です

 国際人権団体の調べでは、世界198か国のうち、死刑廃止国は142か国、存置国は56か国です。存置国でも、実際に執行したのは20か国程度にすぎません。

 ヨーロッパのEU加盟国では、死刑制度を廃止しないと加盟できないことになっています。イギリスもフランスもドイツも死刑制度はありません。

 先進国グループであるOECD加盟国37か国中死刑制度を存置しているのは日本、韓国、米国の3か国のみです。

 そのうち韓国は死刑判決があっても執行していません。米国でも死刑廃止した州は半数近くに達しています。

 しかも、日本は国連人権理事会、自由権規約委員会、拷問禁止委員会から死刑廃止に向けた行動をとるよう勧告を受け続けています。

 経済でも科学技術でも一歩先を走っていたはずと思い込んでいたわが日本は今や人権でも後進国と揶揄されても仕方ないところまできています。

死刑に代わる制度と被害者支援の必要性

 死刑廃止を訴えても、被害者遺族の心情には最大の配慮が必要であることも忘れてはならないと思います。

 日弁連では死刑に代わる刑罰の検討を進めていますし、ご遺族の支援を制度的に整備していくことは大変重要なことです。

 最後に死刑をなくせば凶悪犯罪が増えるのではないかと心配されている方がおられます。しかし、その懸念には及びません。死刑制度が凶悪犯罪を抑制するという考えは死刑制度に賛成する法律家でもとっていません。死刑制度を廃止した国で殺人事件が増えたという実証がないからです。一方で死刑制度がある日本でも集団殺人事件が起こりうるのです。

死刑廃止の持論

 死刑制度は哲学や人権問題と密接にからんでいます。それだけに様々な考え方が出てきます。

 持論を言えば、国家であれ、国民であれ、およそ人の生命を奪うことはできない、それは人がこの世に生を受けたときから、ただその事実のみから人権を保障するとしている日本国憲法の人権思想によるものだと考えられるからです。

 もちろん、不正な人身攻撃を受けたときこれを守るための正当防衛による反撃は許されます。

 しかし、死刑は死刑囚から国民国家を守るために執行されるものではありません。

 その理由があるとすれば怨念を晴らすこと以外は考えられません。見方によれば正義感に通じるものがあります。

 それでもなお個人的には、声高に凶悪犯にも人権があるというつもりはありませんが、やられたらやり返すという応報感情は素朴ではあっても、人権思想の高みにある日本国憲法の精神にはそぐわないと思います。

 死をもってする報復を許すような殺伐とした社会にはしたくないということです。


衆議院総選挙で政権交代を!

2021年8月13日

弁護士 伊藤誠基

【コロナ禍で五輪突入】

 菅政権は、先の通常国会を延長しないまま閉会し、コロナ禍で五輪の強行開催に突き進んでいます。

 政府の感染対策分科会尾見会長は土壇場で消極意見を述べ、感染拡大の懸念を表明しています。7。月から8月にかけて第5波の感染拡大が予想され、多くの世論が延期または中止を求めるなかで、何という政策判断をしたのでしょうか。

 昨年安倍前首相は五輪を延期すると決めたのち持病で辞任し、菅首相が政権を引き継ぎました。PCR検査を抑制し、アベノマスクを全国民に配布するような愚策は菅政権でも何ら変わっていません。

【安倍・菅政権に共通するもの】

 安倍前政権の特徴は、何といっても軍事優先と政治の私物化です。

 憲法改正をせずに法律で集団的自衛権の行使を容認し、次はいつまでも違憲のレッテルを張られている自衛隊員が気の毒だと言って憲法9条に自衛隊を明記する憲法改正を企てました。これは世論の力で阻止できました。

 「もり・かけ・さくら」と揶揄されるお友達を優遇する政治の私物化は目に余るものがありました。桜を見る会の事件では、私たち法律家は政治資金規正法違反、公職選挙法違反で告発しました。安倍氏は逃れたものの、公設秘書については罰金刑で処罰されています。

 では菅首相はどうでしょうか。本質は同じです。

【似た者同士】

 菅政権は昨年9月16日発足しました。最初にやったことは日本学術会議から推薦のあった候補者を委員に任命しなかったことです。日本学術会議法では推薦を拒否できないことになっていたのを任命は総理大臣の権限だといって法を無視しました。昨年検事長の定年延長を検察庁法を無視して強行した安倍政権と同じことをやったわけです。自己の都合の悪い人物を排除するのも政治の私物化です。

 今年に入ってからは、かつて自らが総務大臣をしたときに秘書官として採用した長男が衛星放送の東北新社に就職し、総務官僚を接待していた問題が浮上しました。長男は総務省を辞めてから監督される側の会社に入って官僚を接待していたわけで、役所と民間企業のずぶずぶの関係が出来ていたわけです。

 軍事路線では、憲法改正の布石として憲法改正国民投票法を成立させています。今回の改正は投票方法について公職選挙法と同じ内容に合わせるもので、肝心の最低投票率や有料のネット・マスコミのCM規制などは定めない欠陥法です。投票率が3割、4割でも過半数で憲法が変えられてしまいます。有料CMは資産の多い勢力に有利となり、財力で憲法が改正されてしまいます。

【政治とかね】

 安倍・菅政権で絶対に忘れてはいけないスキャンダルが河井夫婦の選挙買収事件です。

 2019年の参議院通常選挙で河井元法務大臣は妻の案里氏を当選させるため、2700万円もの巨額を地元の多数の県議、市議にバラまいた前代未聞の買収事件です。法務大臣を務めたことのある人物が実刑判決を受けるという政治腐敗そのものを地で行く大不祥事です。

 当時安倍氏は首相、菅氏は官房長官、自民党本部から1億5000万円が河井氏側に送金されています。買収資金がこれから出ているとも言われています。でも、両氏はだんまりを決め込んでいるのです。安倍氏は案里氏の選挙カーに乗り込み、菅氏は大好きなパンケーキを案里氏と一緒に食べる動画まで拡散させていました。

 こんな政権をいつまでも許しておいてよいのでしょうか。お隣の韓国なら首都で100万人デモが起こっているはずです。

【野党共闘で政権交代を実現】

 いつ衆議院が解散されるのか話題になっていますが、10月21日任期満了となるので、五輪後すぐ解散総選挙になる可能性が高いでしょう。

 五輪の強行とコロナ対策の失政が重なり、政権の支持率は低迷です。

 官民癒着、政治を私物化し、アベノミクスで格差を拡大させてきた安倍・菅政権を終わらせるためには、総選挙で野党が多数となり、政権を交代させるほか途はないのではないでしょうか。

 野党がまとまれば現政権と互角の戦いができると言われています。

 今年の秋は特に注目です。


菅政権の恐怖政治が始まる

2021年1月2日

弁護士 伊藤誠基

【安倍前首相の辞任と改憲問題】

 安倍前首相は昨年8月28日持病が悪化したとして突如辞任しました。

 2018年には任期中の改憲(特に憲法9条に自衛隊を明記する案)を強く打ち出し,2019年には国民投票を実施し,オリンピック年であった昨年には施行すると力強く訴えていました。

 野党はもとより,市民運動などの反対勢力は憲法擁護のため総力を挙げて「安倍9条改憲NO!3000万人署名」運動に取り組み,当事務所でも依頼者の皆様にご協力いただき,多数の署名を寄せていただきました。

 安倍前首相は辞任表明後の記者会見で,改憲の機運が盛り上がらなかったことを率直に認めざるを得ませんでした。

 辞任のほんとの理由はわからないところがありますが,いずれにせよ,憲法の平和主義を根底から覆す改憲を許さなかったことは市民運動の大きな成果と言えるのではないでしょうか。

【菅首相の出だしが違法行為】

 菅首相は昨年9月16日国会の指名に基づき内閣総理大臣に就任しました。

 就任早々,日本学術会議が105名の学者を会員に推薦したのに99名しか任命せず,物議を呼んでいます。

 日本学術会議は法律によって設立された組織で,各研究分野で突出した業績のある学者を会員に迎え入れるもので,学術の立場から様々な提言をし,しかも政治とは独立して業務を行うことになっています。内閣総理大臣は推薦のあった会員を任命すると法律で定められているものです。

 ところが,菅首相は6名の学者を任命せず,その理由を俯瞰的,総合的に考慮した結果だとしか述べていません。これらの学者は過去政府に批判的意見や賛同したことがあり,それが理由だと言われています。

 これを支持する元自治体首長を務めたことのある某弁護士は国民から選ばれた総理が税金が投入されている学者組織に民主的統制をするのは問題ないと発言しています。

 安倍前首相の時もそうでしたが,最近の政府は,選挙で選ばれた者は,国民的基盤があるので,何でもできると考えている節があります。こういう考え方ですと,国民の多数が賛成すれば憲法は如何様にでも改正できることになります。

 しかし,近代の民主主義や人権思想は,例え国民から選ばれた政治家であっても,国民からの信任を裏切ることは許されず,ルール(憲法や法律)を無視したり,私利私欲に走れば,国民は解任し,追放することができるという原則に立っています。

 日本学術会議法は,政治介入によって学者の自由な言論が妨げられたり,国民に背を向け政府に安易に追従することがないよう政治からの独立をうたっています。だから軍事研究にも否定的評価を下すことができるのです。総理大臣に任命権があっても,推薦された学者を排除することは,法律上許されず,違法行為となります。

 安倍前首相はお気に入りの東京高検検事長の定年延長を国家公務員法を無視して決めてしまうという違法行為を犯しました。菅首相は気に食わない学者を法を無視して排除しました。これらの一連の動きを見ると,政権に忖度する官僚,学者は優遇し,批判する者は徹底的に排除するという恐怖政治の流れが出来つつあることがわかります。

【来る衆議院総選挙では政権転換を】

 昨今のコロナ禍では全国民が経済的,精神的な苦難に見舞われています。いつ終息すのか見通しが立っていません。その中にあって,最も厳しい状態に置かれているのは非正規労働者,学生,零細事業者などの方々でしょう。災難は最も弱い立場の人に現れます。同時に社会システムの脆弱さもあらわになってきました。

 現政権は新自由主義政策といって,大企業が活動し易くすること,福祉,教育などの分野では経済効率に見合わないものはどんどん削減していくという考えに沿って政権運営しています。保健所の数をかつての半分以下にしたのもその一環で,その結果がPCR検査すらまともにできない社会にしてしまいました。

 これから日本の人口はどんどん減っていきます。少子高齢化などもう何十年も前から言われているのに,何の手も打たれず来ました。この間やったのは弱肉強食社会にした新自由主義政策だけです。高度経済成長をもう一度と願わんばかりの東京オリンピックも延期になり,やることなすこと空回りばかりです。

 富める者は益々富ませ,多くの国民には自己責任を強調し,国の手助けは死ぬ間際になってからなんていう政権を終わりにしたいものです。

 弱肉強食社会に終わりを告げ,国民のだれ一人として取り残されない支え合う社会に転換するためには,政権を変えるほかありません。

 今年必ず衆議院総選挙があります。コロナ禍の今,政権を変えるチャンスではないでしょうか。





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