伊藤 誠基の記事一覧

三重合同法律事務所事務所コラム

伊藤 誠基の記事

安倍9条改憲NO! 自衛隊が改憲で様変わり

2019年8月13日


弁護士 伊藤 誠基

IMG_5387本当に憲法を変えるのですか

 自民党の参議院選挙公約の一番最後に憲法改正が掲げられていました。内容も改正項目が示されただけの薄いもの。安倍首相はそれでも今年中に国会で憲法改正を発議し,2020年の施行を諦めていないようです。

 一方,国会の本会議で発議する前に両議院の憲法審査会で議決するのが与野党合意となっていますが,これまで一度も実質審議が行われていません。野党が審議に応じない姿勢を堅持しているのと3000万署名など反対運動の成果です。

 また,国民投票法の改正案も通常国会で成立しなかったので改憲勢力にとっては誤算続きなのは間違いありません。

自衛隊の明記で何が変わるか

 「自衛隊員の子どもが可愛そうなので9条に自衛隊を明記する」だけで「改正しても何も変わらない」というのが安倍首相の説明です。

 これを真に受ける国民はどれだけおられるのでしょうか。

 自衛隊が憲法上のお墨付きを得たなら防衛費はどんどん増加していくと考えるのが通常の予測というものです。

 2019年度予算では防衛費は5兆2574億円で過去最大となっています。

 しかし,改憲されれば軍拡に更に拍車がかかります。その兆候は既に現れています。

武器の爆買い

 安倍首相は,トランプ大統領から戦闘機F35の追加購入を約束させられたことが報道されています。従来購入が決まっていたのが42機であるのに対し追加が105機です。1機100億円を超えるといいます。これに維持費が1機で年間10億円以上かかるようです。

 ところで,このF35はステルス機で最先端の性能があるとか言われている反面,運動性能は旧式に劣るそうです。「曲がれず,上昇できず,動けない」と酷評する人もいます(東京新聞論説委員半田滋氏)。

 ソフトもバグだらけ,完成しても肝心なプログラム(3割?)は提供されないとも言われ,現状ではただの飛ぶ物体だとも言われています。自衛隊員がこれで命を落とされた記憶も忘れてはならないでしょう。ドイツや当の米軍も購入しないようです。

 では何のために購入するのでしょうか。米国の軍需産業とトランプさんの選挙対策のため貴重な血税が使われるとしか説明できません。

海,陸の武器も攻撃型にエスカレート

 お金の問題だけではありません。護衛艦「いずも」にF35Bを搭載できるよう改装し,空母化しようとしています。イージスショアを秋田と山口に配備し迎撃ミサイルシステムを敷こうとしています。従来の政府見解では空母,ICBM,長距離戦略爆撃機は必要最小限度を超えるものとしていたのをあっさりとっぱらってしまいました。秋田の住民説明会ではグーグルアースで机上計算した資料が誤っていたことが話題となっていました。政府は緊張感が欠けていたと謝罪していますが,そもそもこんなもので外国(北朝鮮?)のミサイルを撃ち落とせると当の防衛庁の職員も本気で考えていないのではないでしょうか。しかもこれは攻撃型兵器です。

改憲阻止の正念場

 改憲は自民党の党是です。しかし,選挙ではあからさまに訴えてきませんでした。自民党の支持者も全てが改憲に賛成しているとは言えないからです。

 行き過ぎた規制緩和,金融緩和による格差拡大,消費税増税による国民の疲弊,年金問題などの解決を後回しにして憲法改正,軍事の肥大化もないでしょう。

 今,安倍政権を終わりにする最後の正念場に来ています。


憲法改正発議をさせないために

2019年1月2日


伊藤写真弁護士 伊藤誠基

 

<3000万人署名の威力>

 昨夏の事務所ニュースでは「安倍9条改憲NO」の記事を書き,改憲阻止のための3000万人署名を訴えました。当事務所でも皆様にお願いし,短期間で1600名を超える署名をいただきました。改めて多くの方々が改憲の危機感を抱いておられることを痛感しました。本当にありがとうございます。

 全国集計でも2000万筆に迫っているようです。その成果や権力私物化問題などで,安倍政権が昨年の通常国会で期待していた憲法論議は全くなされませんでした。

 まだ署名されていない方がおられましたらいつでも当事務所までご連絡ください。御一人でも署名用紙をお送りします。

<憲法改正発議の時期は?>

 安倍首相は既に2020年には改正憲法を施行したいと公言しています。そのためには今年中にはどうしても国会で発議する必要があります。

 ところで今年の春は全国一斉地方選挙,5月1日は新天皇の即位,7月は参議院選挙が予定されており,スケジュール的に発議は非常に厳しいとされています。

 そのため発議時期は遅くなるのではないかという見方がある一方,安倍政権の予測不可能性から参議院選挙前に強引に推進してくる恐れがあるとも言われています。

 参議院選挙で野党共闘が成功すれば,現在は発議に必要な改憲派議員が3分の2を超えていたのがこれを割り込み改憲できなくなるので,選挙前に強硬突破してくることは十分に考えられます。気を抜けません。

<改憲4項目>

 どういう改憲案か,現在までのところ,①9条に自衛隊を明記する②緊急事態条項(緊急事態下で国民の権利を制限する)③教育無償の充実④合区解消(人口減少県でも一人の議員を選出できるようにする)の4項目のようです。

 どれも「なさけない」項目ばかりですが,9条改憲が何といっても絶対に阻止しないといけない項目です。9条改憲なくして改憲はないというのが安倍政権の姿勢ですから。

<9条改憲案がダメな理由>

 安倍首相は国民の9割が自衛隊を信頼している,9条に明記して自衛隊員に報いる必要があると述べています。自衛隊を明記しても何も変わらないとも言っております。

 これがまやかしであることは前の記事で指摘したところです。自衛隊に憲法上の根拠が付与されると防衛費がますます増大することは目に見えています。福祉,医療,教育の更なる後退は避けられないでしょう。

 ことは経済問題にとどまらず,集団的自衛権の行使に歯止めがかからなくなります。安保法(戦争法)では同盟国が攻撃され,同時に我が国の安全に明白な危険が生ずれば自衛権を行使できると定めています。限定的集団的自衛権だと説明されています。

 自衛隊が憲法に明記されれば,政府は同盟国が攻撃されたというだけで自衛隊を海外派遣できる無限定の集団的自衛権の行使が可能と言い出すでしょう。歯止めのない何でもありの状況が作られていくでしょう。

 自衛隊員への同情論などほんとに国民を馬鹿にしたとしか言いようのない低レベルの論理で世界的に先進的な9条の価値を葬り去ってもよいのでしょうか。

<国民投票に持ち込ませない>

 国会の発議がないと国民投票になりません。まずは発議をさせない,国民投票に持ち込ませないようにするのが今一番の課題です。

 一人一人ができることは限られていますが,署名に協力する,参議院選挙では野党共闘候補に投票することは誰にでもできることですので,格調高い日本国憲法を守り抜く運動に是非ご協力ください。


安倍9条改憲NO!

2018年8月16日


弁護士 伊藤誠基

写真(伊藤2018s)

今やらないと間に合わない3000万署名

 安倍首相は,森友・加計学園問題で内閣支持率が不支持率を下回る状況が続いていても,改憲推進の立場を変えません。

 2020年には改正憲法を施行すると公言していますので,そのためには今年中に国会で発議し,来年初めには国民投票にかけるスケジュールでいかないと間に合わないと言われています。

 そのため,当事務所では緊急に安倍改憲NO3000万署名を依頼者の皆様にお願いしてきました。予想していたより多くの方々から署名をいただきました。責任をもって集約団体に請願署名として送付させていただきました。

中には自ら多数の署名を集めてくださった方,短歌を添えて署名を送っていただいた方など関心の高さがうかがえ,署名運動をしていてこれほどの反響があったことは過去記憶にありません。

改憲,護憲いろいろ議論があっても,憲法9条改憲に関しては未だ国民の多くは否定的であると,個人的ながらの感想です。

9条改憲自民党案の落とし穴

 自民党は既に改憲の大枠を決めています。憲法9条に関しては,憲法9条1項(戦争放棄),2項(戦力不保持)はそのままにして,自衛隊を憲法に明記(9条の2)する加憲という案が有力です。

 災害救助で頑張っている自衛隊員の労に報いるためだとか,いかにも同情を引きそうなスローガンで誘導しています。

 あるいは,北朝鮮のたびたびのミサイル発射にかこつけて,Jアラートで発射の警告を鳴らすなど,戦時中の空襲警報もどきの演出をして危機感を煽り立ててきました。早朝の警報を聞いたとき,皆さんいかが思われたでしょうか。警報時にはミサイルは既に日本のはるか500キロ上空をかすめて5分も経過していたといいます。

 北朝鮮の「脅威」はもとは米国に向けられたもので,その米朝も6月12日シンガポールで朝鮮半島非核化の宣言を成立させました。

 さらに昨年6月核兵器禁止条約が成立し,国連加盟国の3分の2にあたる122カ国が賛成しています。世界の趨勢は武力ではなく,対話の追求による安全保障に向かっています。

 緊張緩和の時代に憲法9条を改正して自衛隊を明記することは大儀名分を欠いています。

安倍首相は自衛隊を明記しても自衛隊の役割は変わらないと発言していますが,信用できるでしょうか。

 したたかなトランプ大統領は,日本の輸出品に高関税を課すだけでなく,高額な武器を買わせようとしています。9条を改正すれば,無用な武器をもっと買わされ,防衛費いや軍事費はますます膨張していくでしょう。自衛隊の任務も,海外展開に重きが置かれることは目に見えてます。

 9条改憲はそういう日本にしてもよいのでしょうかという問いかけであることを見落とすべきではないと考えます。

改憲発議させないために

 憲法改正にはまず国会で国会議員の3分の2以上の賛成で発議することが必要です。改憲自体に賛成する政党単位の頭数ではこの要件を満たしていると言われています。

しかし,9条改憲は,第二次世界大戦で海外侵略し,また300万人もの自国民を戦死させた日本の軍事政権への反省に立って成立した日本国憲法の真髄を根底からひっくり返してしまうことに思いをいたせば,一番やってはいけない暴挙ではないでしょうか。

そう考えれば,9条改憲は政党,政派にかかわらない問題ですから,9条改憲を許さない世論が形成できれば国民の力で必ず阻止できると期待しています。


我が国財政の現状

2018年1月1日


伊藤写真18年用弁護士 伊藤誠基

憲法改正して自衛隊を国軍化すると軍事費は確実に増大しますね

 安倍首相は先の衆議院総選挙で大勝したことから,憲法9条を改正して自衛隊を憲法に明記し,自衛隊の国軍化を進めてくると思います。

 そうなると軍事費が増大するのは自然の流れです。今でもありもしない北朝鮮の脅威を煽り立て,日本の安全を守りますと大見得切ってるくらいですから。

 それで,日本の国家財政事情から軍事費増大のもたらす意味を考えてみました。

財務省の宣伝

 財務省は「我が国財政の現状」というパンフを作成して,国の財政事情は厳しいとしきりに宣伝しています。とにかく消費税を上げて懐具合を良くしたいと考えてますから。

 財務省の言い分を簡略化すると,支出の3分の2は税収でまかなっているが,3分の1は国債などの借金で補っているのは不健全で,借金のつけは将来子どもに残す結果になるというものです。

 国の借金残高は,年度末の2018年3月時点で865兆円になるそうです。

借金の対GDP(国内総生産)比は250%を超えており,先進国中最悪と説明されます。二番目に悪いイタリアは130%程度といいます。

アベノミクスで借金増える

 アベノミクスは,お札をたくさん印刷(国債発行)してインフレにして金回りをよくしようという政策です。某著名な経済学者はアホノミクスと揶揄されているのは有名な話です。

 安倍政権は,新自由主義の経済政策ですから,規制緩和し,国債発行すれば企業活動が活発になり,税収も増えるという考えですね。

 しかし,企業活動が活発になるという保障は全くありませんから(世の中うまいもうけ話はない),下手するともっと借金は膨らみます。

軍事費増額の財源はあるのか

 国の財政事情が宣伝される一方で国の安全のために軍事費を増額する必要があるとするなら,どうやって財源を捻出するのでしょうか。

 2017年度予算の支出(歳出)を見ると,97兆円の支出総額のうち①社会保障費32兆円(33%)②地方交付税交付金15兆円(16%)③公共事業費5.9兆円(6%)④文教及び科学振興費5.3兆円(5.5%)⑤防衛費5.1兆円(5.3%)等々となります。

 税収が増えないとすれば,外の支出を削る外ありません。②は地方へ回すお金なんで削減は難しい。ならば,社会保障費,公共事業費,教育費を削る外ないでしょうね。

 国の安全のためとか言われて外の支出を削るとすればどこを削るのかという話になってきます。

消費税があるじゃないか

 どこも削減できないとすれば消費税を増税することが考えられます。安倍首相は選挙期間中消費税の増額分は教育の無償化に充てるとかいい加減なことを言ってました。それでも全部充てるという話ではありません。結局は一般財源に組み込まれて軍事費にも回るでしょう。

憲法改正のもたらすもの

 憲法9条を改正するということは,自衛隊の現状追認だけでは済まず,軍事費増大,教育・福祉の後退,そして何より際限のない軍備拡張競争に突入することを意味すると考えるべきではないでしょうか。

 国会の改憲勢力は憲法改正発議に必要な国会議員の3分の2を超えています。今年は特に国会の動きを注目してきたいと思います。


加憲という名の憲法改正

2017年7月31日


弁護士 伊藤 誠基

伊藤写真 - コピー

安倍発言

 首相は,5月3日の憲法記念日に憲法9条1項,2項をそのまま残して新たに自衛隊を書き込む憲法改正を実施し,2020年は施行される年にしたいと発言しました。これまでの流れとは違っていたので驚きです。

発言の動機

 自民党の憲法改正の最大の眼目は自衛隊を公然たる軍隊にすることでしょう。しかし,どの世論調査でも,国民投票で過半数の同意を得ることは困難と予想されます。

 そのため,環境権規定をもうけるなど周辺の憲法改正をして国民を改正慣れにして最後は9条に踏み込む戦略を考えているようでした。

 しかし,時間がかかりすぎます。改憲勢力は現在は国会議員の3分の2を超えていますが,この先保障はありません。だとすれば,今のうちに何とかしたいと考えての発言になったものです。

なぜ加憲か

 加憲説は,右翼思想家の人たちからなる日本会議の幹部の提案に乗っています。1項と2項を維持すれば護憲派を刺激することなく,また国民も自衛隊に親和的になっているので憲法改正が実現できるとの判断です。

どのように加憲するのか

 日本会議の幹部氏によると,9条に3項を置いて,「但し,前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するものではない。」と規定します。この提案は,憲法の平和,人権,民主主義の基礎を一層確かなものにするという発想だとしています(日本政策研究センター「明日への選択」2016年9月号「三分の二獲得後の改憲戦略」伊藤哲夫著)

まやかし

 日本会議のメンバーは,現行憲法の平和,人権,民主主義に異議を唱えている人たちです。だから加憲は,護憲派を反対させにくくするレトリックでしょう。それと,戦力の保持を禁止し,3項に自衛隊を加えても今度は憲法の規定間に矛盾が持ち込まれるだけで,何の解決にもなりません。

自衛隊は違憲です

 現在日本の防衛費は4兆円の真ん中までいっています。毎年世界第8位をキープしています。フランスの少し下,ドイツ,イタリアよりも上です。素直に考えれば憲法9条2項の禁ずる戦力です。ご存知でしょうか。憲法学界では自衛隊は違憲というのが通説(ほとんど異論のない意見)です。

自衛隊問題をどう考えるか

 自衛隊を是としたとしても,そのために憲法を改正する必要があるのか。

仮に憲法に明記されれば,自衛隊の増強が今以上に進むことは避けられません。今でも憲法改正もせずに集団的自衛権を認める安保法案を成立させ,南スーダンに自衛隊を派遣しているくらいですから,歯止めがかからなくなります。

 一方,自衛隊が違憲だとする政権になったとしても,すぐ自衛隊がなくなるわけではありません。まず法律改正しないと廃止できません。国民が必要な範囲で存在を是認するなら,防衛費,規模を縮小する「軍縮」に向かう努力をすることだって可能です。2項があるからできることです。

戦後の教訓

 加憲説は,現行憲法の平和,人権,民主主義を望まない人たちからの提案であることを忘れてはならないことだと思います。憲法を擁護することは大切なことですが,どんな憲法であってもよいというのではなく,その前に平和主義に徹することが72年前の終戦の教訓というものではないでしょうか。


日弁連が死刑制度廃止を求める宣言

2017年1月1日


弁護士 伊藤 誠基

伊藤写真死刑制度廃止宣言

 日本弁護士連合会は,昨年10月7日福井市で開催した人権大会で,死刑制度を2020年までに廃止を目指すべきとの宣言決議を採択しました。当時マスコミでも報道され,話題となっています。日弁連が死刑制度の廃止を打ち出したのは初めてのことです。弁護士でも廃止に反対する意見があり,これまで組織として明確な意見表明に至っていませんでしたから,画期的です。

なぜ死刑廃止宣言をするのか

 凄惨な殺人事件が発生すると,悲嘆に暮れるご遺族に人々が強い共感を示し,犯人には厳罰,すなわち死刑という刑罰に処すべきとの感情に駆られることは,ごく自然なことかもしれません。

 しかし,世界的には死刑制度を維持している国は少数派です。死刑を廃止している国は実に140か国に達し,死刑制度がある国でも実際に執行している国は25か国です。

OECD加盟国(欧米含む先進国)34か国でみても,死刑制度を維持しているのはアメリカ,日本,韓国の3か国しかありません。アメリカも18州が死刑制度を廃止し,存置している州でも実際に執行した州は6州のみです。韓国も事実上執行を停止しています。

日本政府は国連の自由権規約委員会,拷問禁止委員会,人権理事会から死刑執行を停止し,死刑廃止を前向きに検討するべきであるとの勧告を受けています。

こういう国際社会の潮流からすれば日弁連の宣言は決して先走ったものでないことがわかります。

なぜ死刑制度廃止に向かっているのか

 日本の世論では死刑制度を維持する意見が多数派となっているのですが,国際社会ではどうして逆の流れになっているのでしょうか。それは死刑は人の生命を奪う刑罰であり,人権保障制度と本質的に相容れないものと考えるからです。そもそも刑罰は犯罪者の生命あってのもので,それを奪うのは刑罰制度の自滅行為です。

 さらに,死刑判決は常に正しいとは限りません。日本でも4名の死刑囚が再審で無罪になっていることからも理解できます。

 罪を認めている死刑囚でも,事件は残虐,残忍ですが,少年時代親から虐待を受けたり,貧困,差別に晒されている場合が多く,生まれながらにして犯罪者であるはずはありません。

 私は,濱川邦彦さんという強盗殺人罪で死刑囚となった人の再審事件(久居事件)を担当しています。名古屋拘置所で打合せをしたとき,彼から外の死刑囚と顔を合わせた時の印象を聞いたことがありました。とても極悪犯罪を犯した人物には見えないそうです。知的障害があったり,身体が不自由で他人に利用されたり,本当に悪い人間は罪を逃れたりしていると。彼はいつ何時死刑執行されるかわからない中で懸命に再審事件を闘っています。死刑制度は事件の真実や社会の矛盾を覆い隠す制度でもあると私は考えています。

死刑制度がなくなれば不安か

 死刑制度は犯罪抑止効果があるという研究はありません。むしろ懐疑的であるというのが,制度の賛否にかかわらず一致した意見です。

 現在死刑賛成論の最大の根拠は応報感情にあると思われます。

 しかし,刑罰=応報(目には目を)という考え方は克服されつつあります。刑罰より社会復帰の処遇が日本でも刑事政策の中心になりつつあります。同時にご遺族の支援をもっと拡大することに心血を注ぐべきでしょう。


遺言をめぐる最近の話題

2016年7月1日


伊藤誠基

弁護士 伊藤 誠基

〈遺言の裁判記事

最近,自筆証書遺言をめぐる裁判記事が目につくようになっています。本格的な高齢化社会を迎え,法律分野で今最も関心が持たれているテーマです。何が問題となっているのか,いくつかご紹介します。

〈自筆証書遺言とは〉

 遺言は自己の財産を死後誰に承継させるのかを記載した法律文書です。作成方法は通常,自筆で作成する自筆証書遺言と公証人に作成を依頼する公正証書遺言の二つがあります。今回取り上げるのは自筆証書書です。

 その場合,民法は厳格に要式を定めています。①全文自筆であること②日付の記載③署名,押印する,の3点が要件となります。

 本人が作成したことが明らかでも,3点セットを外した遺言書は無効です。

 ワープロで作ったり,スマホの動画で遺言を記録させるのも無効です。

 一方,カーボンで複写したものでもよいとした最高裁判所判決があります。

〈赤ボールペンの斜線が入った遺言書〉

 最高裁は一般的には斜線を入れるのは「遺言の効力を失わせる意思の表れ」として無効と判断しました。おもしろいのは地方裁判所も高等裁判所も有効としていたのを最高裁がひっくり返したことです。

〈押印の代わりに拇印〉

 押印とは通常は印章を使うのですが,拇印は。最高裁は有効としています。しかし,署名は自署に限ります。氏名のゴム印は無効です。

〈押印の代わりに花押〉

 最近の報道によると,最高裁は有効とした高裁判決を覆し,無効としたようです。花押を押印の代用にする習慣はないという理由です。戦国時代の武将が使っていたやつですね。

〈日付もあなどれない〉

 「平成28年8月吉日」は無効です。特定の日を意味しないからです。他方,「平成2000年1月1日」と書かれた遺言書を有効とした地裁判決があります。「大晦日」も有効でしょうね。遺言をした実際の日と違った日付を書いた場合,無効とした高裁判決があります。

〈自筆の遺言書は手軽ですが〉

 慎重にしないと無効とされるおそれがあります。それに遺言を実行する前に家庭裁判所に持ち込んで「検認」という手続を踏む必要があり,その時遺言の存在を他の相続人に気づかれますね。手数料がかかりますが(僅かです),公正証書遺言がよいと思います。


マイナンバー法のおさらい

2016年1月1日


弁護士 伊藤 誠基

伊藤誠基 2016 昨年暮頃からマイナンバー法に基づいて市町村から個人番号通知カードが書留で届けられているかと思います。

 これがどういうものか私なりに整理してみました。

<個人番号の利用範囲>

 個人番号はあくまで行政手続内で利用されるだけです。しかも,利用範囲は,①税金(所得税,住民税等)②社会保障(医療保険,年金,雇用保険,労災保険)③災害の3分野に限定されています。

 ですから,民間取引,例えばクレジット契約,車や住宅の売買契約等で事業者から個人番号を聞かれることはありません。

<会社員は今月から個人番号必要>

 会社員は,事業者が給与から所得税,住民税,社会保険等を天引きして諸官庁に納付するため,平成28年1月から個人番号を提供するよう求められます。個人番号を提供したり,要求することは何人でも禁止されていますが,法律上必要とされている場合は,個人番号を提供するのは義務となっています。しかし,拒んでも処罰されることはありません。

<事業者側でも安全管理>

 従業員から個人番号の提供を受ける事業者側では完全管理措置をとることになっています。例えば,取扱責任者を置いたり,個人番号を管理するパソコンを限定しウイルスソフトを最新にしたり,管理区域をもうけたり,管理規則を作ることなどが推奨されています。

<個人番号カードは任意>

 個人番号が送られてきた時の通知カードは紙ですが,希望すればICチップが組み込まれたプラスティック製の「個人番号カード」の発行(無料)を受けることができます。写真が入っているので運転免許証と同じような身分証明になります。公務員はこれを首から吊すようになるかもしれません。

<光と影>

 個人番号制度は十分な準備期間を置かずに見切り発車した制度です。

 法は個人番号を安全に管理するよう求めていますが,現実にどれだけの企業がこのような措置をとっているでしょうか。小規模事業所なら安全管理にも限界があります。法の建前は現状では画餅です。

 安全管理が行き届かない現状が改められていない一方で,利用範囲を拡大したり,民間取引にも拡大することが目論まれています。法律自体に矛盾が内包されています。

 3年後には預金口座にも個人番号という紐でつながれます。

個人番号制度はこの紐一本で個人情報が収集され,かつ漏洩の危険に晒されることになることを認識しておく必要があります。

 


労働者派遣法改正案はどこが問題か

2015年7月31日

弁護士 伊藤 誠基

国会審議中

 労働者派遣法改正案が衆議院を通過し,参議院で審議中です。政府は今年9月1日の施行を目指しています。しかし,労働団体は激しく反対しています。では,どこに一番問題があるのでしょうか。

派遣労働とは

 派遣会社が雇用する労働者を派遣先の会社に派遣し,派遣労働者は派遣先の指揮,命令の下で労働するが,給料は派遣会社から受け取る形態をとります。派遣会社と派遣先との間で労働力の「売り買い」をするようなものです。

労働者派遣法とは

 労働者派遣は労働基準法が禁ずる人貸業ですが,労働者派遣法という法制度ができたことで合法化されます。

 この法律は派遣労働者を保護するため様々な規制を設けています。法の建前は派遣労働に縛りをかけ,正社員化を促すものであるはずが,規制内容を見ると逆に派遣労働を助長するような内容になってしまっていることが従来から批判されてきました。

写真・伊藤

現行法は

 26の専門業務(IT関連,通訳,翻訳等)とそれ以外の一般業務に分けたうえで,専門業種については派遣期間は3年以内と定められていても,期間延長ができて,ある意味派遣労働者はずっとその職に就くことができます。一般業務では派遣期間は最長3年です。派遣先がこれを超えて働かせようとする場合には派遣労働者を直接雇用しなければなりません。

ところが改正法案は

 専門業務と一般業務の区別をやめ,同じ規制に統一します。その規制方法は事業所内の派遣労働者の部署,つまりポストとそのポストに座る個々の派遣労働者を分けて考えます。そして,派遣のポストは3年間という派遣期間の制限を受けますが,派遣先が労働組合あるいは労働者の過半数を代表する者に期間延長を説明すれば,派遣のポストは3年毎にいくらでも延長できます。

 しかし,派遣のポストが延長されたとしても,個人の派遣労働者は3年を超えてはそのポストで働くことができないという制限を受けます。直接雇用制度はなしです。

建前と本音

 もともと派遣期間を制限する規制は,企業が正規労働者を派遣労働者に置き換えることのないようにするものです。ところが,改正法案は,派遣のポストは永続化できる一方,個々の労働者については同じ事業所で雇用されなくなるという不利益を受けてしまいます。これは企業にとっては都合がよく,派遣労働者にとっては正社員化の道を塞がれることになります。

 この法案には厳しい目を向けていく必要がありますね。


今年から相続税が変わりました

2015年1月1日


 弁護士 伊藤 誠基

 既に本格的な高齢化社会を迎えていますが,相続の問題を真剣に考える高齢者の方々が増えています。亡くなった後,自分の遺産が誰に相続されるのか,あるいは誰に相続させたいのか,考えると悩ましいものです。

 高齢者だけでなく,これから相続を受ける側の立場の方々も否応なく相続問題が我が身に降りかかってきます。そんな時,忘れてはならないのは,相続税の負担の問題です。

 これまでは,相続税の基礎控除が「5000万円+1000万円×相続人の数」でしたので,これを超えない限り相続税を支払う必要はありませんでした。相続人が妻と子どもが二人なら遺産が8000万円(5000万円+相続人3人×1000万円)を超えない限り相続税の問題は発生しません。

 ところが,今年1月1日以降の相続では,基礎控除額が「3000万円+600万円×相続人の数」になりましたから,前の例で言えば,遺産が4800万円を超えると課税され,税負担の可能性が相当高くなります。また,相続税率も少しアップします。この差は結構大きいので,今しきりに税負担を軽くするためと称した商法が展開されています。反面、居住用宅地はこれまで240平方メートルまでは評価額の80パーセント減額されていましたが,来年から330平方メートルまで拡大されます。

 IMG_0018遺産総額が基礎控除額を超え,相続税を納付すべきことになった場合,相続税の申告時期は相続の開始があったことを知った日から10か月以内に,被相続人の住所地を管轄する税務署に相続税の申告をする必要があります。相続人間で遺産分割協議(誰がどの遺産を取得するかの協議)が成立すれば,連名で申告書を提出します。

しかし,遺産相続に争いがある場合,よく問題になるのは,紛争が解決しなければ申告できないのではないということです。こういう場合は,各共同相続人が法定相続分に従って相続したと仮定して納税額を計算し,各人が確定申告し,とりあえず納税しておけばよいわけです。

 ただし,この場合配偶者に対する相続税の負担軽減措置あるいは小規模宅地等の特例は適用されません。そして,その後遺産分割が完了した場合,取得額が法定相続分を超え,納税額が増えれば修正申告し,不足額を納付します。

 逆に納めすぎた場合は更正請求して取り戻すことができます。更正請求は分割の確定から4か月以内に行うものとされていますので注意が必要です。理屈で説明すれば,それだけのことですが,紛争が長期化すれば,現実に遺産を取得してないのに相続税をいかに支払うのか,厳しい問題が突きつけられます。

 高齢化社会の進展により遺産争いが増えていくことが予想されますが,遺言を作成するにせよ,遺産分割協議を進めるにせよ税負担のことも考えながら検討を進めていく必要があります。戦後社会が本格的な相続問題に直面したことはありませんでしたから,法制度も未整備なところがあり,私たちもあらゆるケースを想定しながら期待に応えていきたいと考えています。

 





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