2022年夏

三重合同法律事務所事務所コラム

2022年8月

2022年夏

 酷暑の候 皆様におかれましては、お元気でお過ごしのことと存じます。

 さて、参議院議員選挙では、自民党が圧勝し、その補完勢力も票を伸ばし、憲法改正を容認する勢力が、衆参両院で3分の2の議席を確保することとなりました

 これから3年間は、衆議院の解散がなければ、国政選挙はありません。自民党と改憲勢力は、この期を逃すまいと憲法9条の改正を進めてくるでしょう。

 多くのマスコミの論調は、軍事費を増加させることについて、ウクライナの戦況や現在の我が国を取り巻く状況から、はっきりとして反対論を述べません。

 軍備増強をすることが我が国を守ることにはなりません。憲法9条を持っている国として、近隣諸国との外交を通じて、軍備に頼らない信頼関係を築きあげることが、一番の安全保障ではないでしょうか。

 これからも、暑い日が続きますが、互いに健康に留意し、平和な環境を維持できるように努めたいものです。


教育をデジタル化してどうなる

弁護士 石坂 俊雄

風子:爺、文部科学省が、教科書を紙からデジタル教科書にすれば、子どもの教育にきめ細かい指導ができると言っているけど、学校はどうなるの。
爺 :政府は、GIGA(ギガ)スクール構想といって、一人一台のデジタル端末を子ども達に与えて、学習させれば、個別最適な学びができると宣伝をしているよ。
風子:GIGAスクール構想て、何なの意味分からない。
爺 :そうだよね。政府の造語で「global and innovation gate for all 」の略語で意訳すれば、「全ての人にとって国際的な革新への入り口となる学校」と言うことらしい。GIGAスクールは、文部科学省だけではなく、内閣府、デジタル庁、総務省、経産省も関与しているよ。この構想では、教師は、授業中でも一人ひとりの反応を把握でき、学習履歴が自動的に記録されるので、その子の理解度に応じた指導が可能になると言ってるね。
風子:それは、いいことではないの。
爺 :しかし、この構想は経団連も提言をしており、どちらかというと民間の経済関係者から出てきた発想ではないかと推測されるね。この構想が実現すれば、データの宝庫である子ども達の学習履歴、体力履歴、健康履歴、テスト履歴等がタブレットを使えば使うほど収集され、AIで分析されれば、IT企業に取ってまたとない利活用のチャンスが生まれることになからね。しかも、子どもたちの学力や資質・能力を一元的に監視・管理される可能性もあるね 。
風子:GIGAスクールでは、教科書もデジタル化になり、紙の教科書はなくなるの。
爺 :文部科学省は、2024年度からデジタル教科書の本格的導入を検討しているね。一定程度教科書がデジタルかするのは仕方ないが、紙の教科書がなくなることを危惧している人もいるよ。
風子:どんな心配があるの。
爺 :教育で重要なことは、人間が対面で触れあうことであり、教室で生まれる教師と生徒との一体感は、デジタルで出せるかという問題がある。  東京大学の酒井邦嘉教授によると、「記憶をするためには、空間的な手がかりが非常に大切で、何ページのどこに書き込んだとか、あそこで先生がこういったと言ったメモをしたことが重要だけど、デジタル教科書だと画面上の位置が定まらず、スクロールすると位置が変わってしまう。電源を切って画面を閉じれば実態がなくなるので、デジタル教科書ではそのような手がかりがない」とか「人間の脳は、原始的で、記憶するときには、沢山のムダ情報を取り込むことで自分と関連づけて知識を確立していくので、教科書は、紙の教科書が主で、デジタル教科書は従であるべきだ。」と述べているね。
風子:デジタル化をすべて避けることはできないだろうから、どうしたいいのかな。
爺 :教育のデジタル化を進めるためには、その内容が透明化され、国、自治体、企業が集積した個人情報をどのように管理・分析・利用しているのかが検証できる仕組みを作り必要があるね。デジタル化は、データシステムを「持つ側」、「管理する側」と「データを提供する代わりにサービスを受ける側」とでは支配関係が生み出されるよね。特に、学校では、相手が未成年の子どもであることを考えると個人情報の収集に伴う情報システムの企画・構築等にあたっては、事前に情報提供者のプライバシーへの影響を「事前」に評価し、情報システムの構築と運用を適正に行うプライバシー影響評価を厳格に行う必要があるね。
風子:健康履歴をデジタル化して収集してAIで分析することには問題がないの。
爺 :あるね。健康履歴は、センシティブ(機微)な情報であるから、健康履歴が学習成果とどのような関係があるのかが明らかになるまでは、デジタル化して収集すべきではないね。
風子:教育のデジタル化は、良いことばかりではなく色々問題がありそうだと言うことが分かったは。ところで、爺は、最近は運動をしているの。
爺 :2年前から腰痛になり、今は座骨神経が時々おかしいので、走ることはできないが、自転車や水泳はできてるよ。5月には、琵琶湖の琵琶湖大橋から北側約150㎞を走破してきたよ。8時間くらいかかったし、雨も降ったから、少しつらかったね。


津市長選を令和5年4月25日に控えて考えること

弁護士 村田 正人

 津市が元相生町自治会長に渡した資源物持ち去り防止パトロール事業の5284万円は未だに返還されていない。前葉津市長は、元相生町自治会長を相手取り不法行為に基づく2912万円の損害賠償請求訴訟を起こしたが、5284万円の詐欺被害にあったと言いながら、津警察署に刑事告訴の手続きも取らずに放置している。しかも、元相生町自治会長に請求している金額は、2372万円を損益相殺した残額の2912万円だけである。

 これでは、津市長の本気度を疑わざるを得ない。
 何故、津市長は、元相生町自治会長の詐欺被害にあった全額の5284万円を請求しないのか、何故、津市長は、元相生町自治会長を詐欺罪で告訴しないのか、その真相に迫るため、津市民の元市議の人達が2つの住民訴訟を起こしている。

 1件目は、津市長は、元相生町自治会長の詐欺被害にあったのではないのではないのか。元相生町自治会長の不当要求行為に押されて、本来、パトロール事業を頼むのであれば、他の地方自治体がしている警備会社に依頼すべきであったのではなかったのか、あえて元相生町自治会長に頼んだのは、騙されたということで済む問題ではなく起きるべくして起きた市政の行政ミスではないのかを問う訴訟である。

 2件目は、資源物収集前夜の午後9時から当日の午前8時30分までの間、津市が頼んだ廃棄物処理業者の収集車が集めにくるまでの間、何故、2度手間となるパトロール事業を元相生町自治会長に頼んだのか、何故、騙されたことがわかったあとも、津市の仕事の代わりをしてもらってなどと言って損益相殺の理屈をつけて、一部の請求しかしないのか、これは、いまだに慣れあい行政を続けている証拠ではないかを問う訴訟である。

 そもそも津警察署には元相生町自治会長を4件の詐欺事件を告訴したにもかかわらず、詐欺の被害額が5284万円を最大であるパトロール事業費の詐欺事件を告訴しないので見逃しているのは、元相生町自治会長と市政との癒着行政が続いているとの誹りを免れないものと言えるだろう。損益相殺をして「おまけ」をしていた違法性と告訴をしない癒着行政の違法性を是正するためには、令和5年4月25日に任期を迎える津市長選で再選を許すのかどうか、保守と革新とを問わず津市民の感性が問われている。


消費税を憲法から考える

弁護士 伊藤 誠基

消費税の使われ方

 政府は、消費税は社会保障費の財源と言っています。本年度予算では、国に入る消費税32兆円は年金、介護、子育て支援に投入されるかのような説明です(財務省HP)。

 消費税法でも「年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。」と定めています。

 ほんとうにそうなら、消費税が上がっても福祉に使われるのであればそれは結構なことです。

 しかし、ことはそう単純なことではないようです。

 まず、消費税収入も国の一般歳入に入ります。社会保障用として別枠でプールされるのではないのです。お金に色は付いてません。

 消費税導入時から税率が上がってきた現在までの間、社会保障費は消費税の増額分ほど増えていません。この間法人税が大幅に減っています。つまり、消費税は法人税(特に大企業)の代役となっているのです(全国商工団体連合会HP)。

インボイス制度

 インボイスとは、請求書に適正な消費税率や税額を記載させる制度です。来年10月実施予定です。課税業者は申請により登録番号を取得し、請求書に記載することになります。

 この制度が導入されると、例えば、製造業者が消費税を納税するとき、材料納入業者から適格請求書(インボイス)の発行を受けないと、売上消費税から材料納入業者へ支払った消費税を控除して支払うことができなくなります。

 事業者の年間売上額が1000万円以下なら消費税の納税が免除されています。インボイス制度のもとでは、免税業者は適格請求書を発行できないので消費税納税業者から相手にされなくなります。それでやむなく課税業者として登録番号を申請しなければならなくなるのです。

 フリーランス、一人親方など零細の個人事業者が課税を強いられるという、弱い者いじめがインボイス制度の実際です。

ウクライナ

 政権政党やこれに追随する一部野党は、ウクライナ問題に乗じて、自衛隊を憲法に明記するなどの憲法改正を一層推し進めるようとしています。

一見消費税とは関係なさそうですが、憲法改正の勢いをかって防衛費を倍増することを狙っていますので、その財源をどうするのかということが問題となり、消費税が無縁ではいられなくなります。

 消費税は、ほんとうは国の借入金返済(国債償還)に多くが使われていると言われていますので、防衛費倍増のため赤字国債を乱発し、その穴埋めに消費税率を20%以上にもっていくことだってありえます。

消費税は暮らしを破壊

 政府の言う「社会保障のための消費税」というのは、実態は大企業の減税財源であったり、国の借入金返済の原資であったり、逆累進性といって、低所得者でも高所得者と同率の間接納税を強いられる不公正税制です。防衛費を倍増すれば、その財源にも充てられる可能性がある、あえて言えばとんでもない税制です。

 暮らしを守り、全ての国民の幸福を追求する権利を保障し、平和のうちに生存することを保障した日本国憲法の精神に反します。

 消費税とインボイス制度の廃止の声は上げ続けていきたいものです。


ロシアによる核兵器使用の威嚇と国際平和に対する考察

弁護士 森 一恵

第1 ロシアによる軍事侵攻及び核兵器使用の威嚇の違法性

1 本年2月24日以降,ロシアはウクライナに対して軍事侵攻を行っている。プーチン大統領は軍の核抑止部隊に対し,任務遂行のための高度警戒態勢に移行する指示を出し,核兵器使用の威嚇を行っている。ロシアによる軍事侵攻が続く中,核兵器使用のリスクは冷戦以降で最も高まっている。

2 1996年の国際司法裁判所の勧告的意見は,「核兵器の使用あるいは威嚇は,国際人道法の原則に一般的に違反する。」としている。

3 2010年のNPT再検討会議では「すべてにとって安全な世界を追求し,核兵器のない世界の平和と安全を達成すること」を決意し,核兵器のない世界を実現し,維持するうえで必要な枠組を確立すべく,「すべての加盟国が特別な努力を払う」ことや,「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道上の結末をもたらすことに深い懸念を表明し,全ての加盟国がいかなる時も,国際人道法を含む,適用可能な国際法を遵守する必要性を再確認する」ことが合意されている。

4 また核兵器禁止条約は前文において「あらゆる核兵器の使用は,武力行使の際に適用される国際法の諸原則,特に国際人道法の諸原則に反する」と規定するとともに,第1条において,核兵器の開発,実験,保有,移譲,使用,使用するとの威嚇などを禁止している。

5 ロシアによる軍事侵攻及び核兵器使用の威嚇は,国際連合憲章2条4項,国際司法裁判所の勧告的意見,NPTや,その再検討会議での合意に違反するとともに,核兵器禁止条約が規定する国際人道法の諸原則にも違反する。


第2 核兵器廃絶と国際平和

1 ロシアによる軍事侵攻を契機に,核共有論が議論されるようになった。核共有論の背景には,「核の傘」に依存して安全保障を確保するという核抑止論がある。しかし核抑止論では「核兵器には核兵器で」の報復を肯定することになりかねず,NPTや核兵器禁止条約に抵触する。国際平和を図るため,全世界において核兵器廃絶を進めるべきである。

2 NPTは,第6条において,核軍備競争の停止,核軍縮及び全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約についての誠実な交渉を締約国に義務付けている。第6条は,核兵器保有国が自らの核兵器の廃棄を約束するものであり,「核兵器のない世界」に向けての法的枠組を定めた規定である。全世界において,NPT第6条の完全・着実な履行のための具体的かつ効果的な提案を行うべきである。

3 また核兵器禁止条約は,第12条において「締約国は,全ての国によるこの条約への普遍的な参加を目標として,この条約の締約国でない国に対し,この条約に署名し,これを批准し,受諾し,承認し,又はこれに加入するよう奨励する」としている。全世界において核兵器禁止条約を普遍化することも必要である。

4 NPTの堅持と核兵器禁止条約の普遍化により,ロシアによる軍事侵攻が早期に解決し,国際平和が戻ることを願い,本考察とさせていただく。 

以上





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