2024年元旦

三重合同法律事務所事務所コラム

2024年1月

2024年元旦

 明けまして,おめでとうございます。

 ロシアによるウクライナ侵攻は終息する状況になく,アメリカをはじめとしたNATO諸国がウクライナ支援を表明し,戦闘機やクラスター爆弾,劣化ウラン弾等の兵器の提供を行うなど,紛争はNATO諸国を巻き込み継続しています。中東情勢についても,パレスチナ暫定自治区ガザを拠点とするイスラム組織ハマスがイスラエルに対して攻撃し,イスラエルも反撃するなど,緊迫しています。

 国内においても,日本政府は,安保三文書(国家安全保障戦略,国家防衛戦略,防衛力整備計画)を改訂し敵基地攻撃能力の保有を明記するなど,立憲主義の堅持や平和憲法である日本国憲法の擁護に逆行する動向が見られます。

 他方で,昨年7月にはNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議準備会合,11月にはTPNW(核兵器禁止条約)第2回締約国会合が開催されるなど,核兵器も戦争もない平和な社会を目指して国際社会が連携する必要性について,粘り強く協議が行われています。

 私たちは法律家として,本年も,平和憲法である日本国憲法を擁護し,人権や暮らしを守る活動を続けてまいります。

 本年もよろしくお願い申しあげます。


相続と登記

弁護士 石坂 俊雄

風子:爺、今年の4月1日から、相続をした場合に登記をしないと罰せらるの。
爺 :そうだね。不動産登記法が改正され、相続があったことを知ったときから、3年以内に相続の登記をする義務があることになったよ。
風子:どうして。このような制度を作ったの。
爺 :相続が始っても、登記をしないでおくとその土地を誰が持っているのか分からなくなって、所有者が不明な土地が増えているため、それを防ぐために改正されたのだよ。
風子:罰則があると聞いたけどどのような罰則。
爺 :3年以内に登記をしないと10万円以下の過料に処せられることになったね。
風子:この改正は、4月1日より前に相続が発生した人にも影響があるの。
爺 :あるね。例えば、2年前に死亡し、相続が発生しているような場合でも適用さるのだよ。その期限は、相続があったことを知った日か施行日である4月1日か、いずれか遅い日から3年以内に登記しなければならいだよ。
風子:でも登記をするのは、相続人全員の戸籍謄本等を集めなければならず面倒よね。なんか、簡単な方法はないの。
爺 :あるよ。相続人申告登記といって、自分が死亡した人の相続人であるという資料、例えば、死亡した人の戸除籍謄本や自分の戸籍謄本等から相続人であることを示して、住所・氏名などを法務局の登記官に申し出出ることにより、相続登記の申請義務を尽くしたことになるのだ。色々調べるのが大変なら、とりあえずこの方法を使うといいね。
風子:一人の人が、相続人申告登記 をすれば、外の共同相続人も相続登記の申請義務を尽くしたことになるの。
爺 :それは、そのようにならないね。相続人は、それぞれ相続人申告登記をしなければならないね。
風子:この制度を利用すれば、相続の登記は、終わりでいいの。
爺 :それは違うね。この制度を使った場合、過料の制裁を受けないということだけなので、最終的に相続をきちんと完了するために遺産分割の話合いや調停をしないといけないことになるね。
風子:よく分かったわ。ところで、爺、昨年の7月のトライアスロンの大会以外に何か大会に参加したの。
爺 :始めて乗鞍ヒルクライムに出たよ。この大会は、ヒルクライムの最高峰と言われており、自転車で海抜1500mの地点を出発し、乗鞍岳の海抜2700mのゴールを目指すのだよ。無事にゴールしたけどね。下山が恐かった。100名規模の人数でまとまって下るので、それなりのスピードがあり、ヘアピンカーブも何カ所もあり、曲がりきれないのではないかとヒヤヒヤしたよ。途中に2名ほど転倒している人がおり、1名は顔と頭から出血をしていたので、無事下山できてよかったよ。
風子:ことしも、相変わらず自転車には乗るでしょうから、くれぐれも気をつけてね。


ネット社会と金融機関への提言

弁護士 村田 正人

 携帯電話の普及とネット社会の拡大により詐欺犯罪の様相も面談詐欺からネット詐欺と大きく変化している。昨年経験した事例では、LINEによる勧誘で、儲け話の広告に反応した人が詐欺にあった事例をいくつか経験した。ネット犯罪の特色は、詐欺集団の拠点が日本国内にはなく海外にあることである。昨年世間を揺るがした広域強盗事件のルフィ事件はその典型である。詐欺集団は、日本の警察力が容易に及ばないところで暗躍している。海外を拠点におく詐欺集団は、日本国内に闇バイトをおき、日本国内の闇バイトを使い金融機関の銀行口座を買い取っては、被害者から騙し取った金を闇バイトの口座に振り込ませて足がつかないようにしている。振込口座も対面銀行ではなくネットバンクが悪用されている例が多い。そのため、闇バイトの振込口座も全国各地に散らばっている。闇バイトの口座開設や売買は、組織犯罪処罰法や犯罪収益移転防止法違反の犯罪行為である。


 ところで、弁護士による闇バイトの責任追及に支障をきたしているのが金融機関の個人情報を盾にした不誠実な対応である。振込口座の口座名義人は、カタカナ名と口座番号しかわからないから、それだけでは闇バイトの漢字の氏名や住所を特定できない。そこで、被害者から相談を受けた場合には、弁護士照会で当該口座名義人の漢字の名前と住所を照会するのであるが、金融機関によっては、顧客の同意を得られないことを理由に回答を拒否してくる例がある。昨年経験した例では、投資詐欺において、みずほ銀行某支店は顧客の同意を得られないことを理由に回答を拒否した。当該口座には多数の口座凍結要請が弁護士から寄せられているはずであり、当該口座が詐欺集団に使用されている事は十分に推定できているにもかかわらず、口座情報を回答しない事は、金融機関が詐欺集団を隠蔽していることになると強く抗議したところである。イオン銀行の場合は、照会に応じて口座開設者の漢字名と住所を回答してきたが、それ以上の情報は、裁判所の調査嘱託でなければ応じられないとの回答をしてきた。金融機関によって取り扱いが異なるのは納得のいかないことである。マネーロンダリングを防止し、詐欺集団による金融機関の悪用を防ぐためには、口座凍結要請に応じるだけではなく、闇バイトの住所や氏名も被害者弁護士に対して速やかに開示するよう是正措置が取られるべきであると考える。このような是正は、法改正を待たなくても各金融機関の内規で取り決めをすれば済むことである。金融機関の社会的使命に照らせば、複数の弁護士から口座凍結要請があった口座については、詐欺集団による闇バイトの口座であるとの推定が働くとして、被害者弁護士に対し、速やかに弁護士照会に応じるように金融機関の体制を改めるべきであると提言する次第である。特に顧客の同意がないことを理由に回答を拒否したみずほ銀行に対しては、強く是正を求めたい。闇バイトの解明は、組織犯罪集団の解明の手掛かりとなる重要情報であり、警察を動かす重要情報であるからである。


防衛費が急増中

弁護士 伊藤 誠基

世界第3位の軍事大国に

 歴代自民党政権は、防衛費をGDP(かつてGNP)の1パーセントを超えないよう予算を決めてきました。それはなぜか、憲法9条で戦力となる軍隊を持つことができないという縛りがあるので、抑制する必要があったからです。自衛のための最低限度の実力装置は許されるとの解釈で憲法との折り合いをつけてきました。

 それでも、戦後の高度経済成長に伴ってGDPが増大していきますので、防衛費は先進国並にアップしていきました。2022年度では世界第10位、それ以前では第8位にまで上り詰めたことがありました。

 ところが、岸田政権は、5年後にはGDPの2%まで引き上げることを閣議決定し、防衛費を一挙に大幅増額(倍増)する方針を決めてしまいました。

 GDPの2%というのは西欧諸国の軍事費の目安になっているものの、絶対額で比べると、アメリカ、中国に次いで世界第3位の軍事大国になることを意味します。


安保三文書

 政府は2015年安保法を改正し、集団的自衛権を行使できるようにしました。集団的自衛権は、自国が他国から攻撃を受けたときでなくとも、同盟国(アメリカ)が攻撃を受けた場合でも、自衛隊を出動させることが可能になります。専守防衛のための自衛隊が同盟国と一緒になって他国で戦争できるようになるということです。

 これまで日本は、まがりなりにも、専守防衛を国是としてきたので、攻撃的兵器は持たないできました。例えば、自衛隊は航空母艦を持っていませんし、外国の領土を攻撃するミサイルは持っていませんでした。

 航空母艦というのは、海上移動して戦闘機で攻撃することを想定した軍艦であり、専守防衛の概念では説明できないものです。

 ところが、集団的自衛権はこの枠を取っ払うことになります。 安倍政権から引き継いだ岸田政権は、安保法で下地ができた集団的自衛権を更に押し進めるため、2022年12月安保三文書と呼ばれる国防戦略を示した文書を改訂しました。敵基地攻撃能力を保有することがうたわれています。専守防衛から逸脱するという批判が起こり、反撃能力と言い換えをしましたが、実質は変わりません。また、防衛費を5年間で43兆円もの増額をするとしました。


文教科学振興費との比

 防衛費の突出がどの程度か、例えば、文教科学振興費、つまり教育関連費と比べると理解し易いです。

 2015年度予算では、教育関連費は5兆3千億円、防衛関係費は4兆9千億円でした。その後も両予算はほぼ均衡し、むしろ防衛関係費は若干下回る程度でした。

 令和5年度予算概算要求では、省庁別予算になりますが、文部科学省予算が4兆9千億円に対し、防衛省予算が5兆3千億円と逆転しています。令和6年度概算要求では、文部科学省予算が5兆円に対し、防衛省予算が7兆7千億円とその差は歴然です。

 教育科学予算を削ってでも、防衛費を増大させていく、それが岸田政権、自公政権の姿勢であるということをしっかりと見ていくべきだと思います。


安全保障環境の変化

 ロシアがウクライナの侵略戦争を始めて今年で2年経とうとしています。また、昨年はハマスとイスラエルの戦争がはじまりました。日本の周辺でも中国が尖閣や東シナ海で威嚇的行動をとったり、台湾への軍事進行を否定しなかったり、北朝鮮のミサイルの発射などもあり、安全保障環境が変化したと言われています。

 岸田政権はこれを口実に、防衛費を大幅増額し、アメリカの要求に応えて共同軍事行動をとるための準備を進めています。

 武力には武力で対峙するということのようです。

 しかし、軍事力をいくら強化しても、完璧に国土を防衛するなどということはおよそあり得ませんし、かえって相手国との間で軍拡競争が過熱し、危険極まりない国際環境になることは明らかです。

 しかも、我が国の食料自給率は低く、エネルギーの大半をロシアを含めた海外に頼っているので、戦時体制をとることなど不可能なことです。


戦争の被害者は誰か 誰が得するか

 日本国憲法によると戦争は国権の発動によるものとされています。国権を担うのは国民が委託した政府です。その政府が始めた戦争によって、誰が一番傷つくのかを考えると、戦争当事国の市民であったり、駆り出された兵士、とりわけ若い人たちです。政府は愛国心を鼓舞するだけで、自らは戦地に赴くことはないのです。

 戦争に兵器は付き物です。軍需産業は潤います。日本政府はアメリカからミサイル、戦闘機を爆買いさせられています。戦争は一般市民が傷つき、その代償で外国の軍需産業を潤すリアルな現実を忘れるべきではないということを訴えて、正月ではありますが、重い課題の記事とさせていただきます。今年も宜しくお願いします。

以上


シンポジウム「犯罪被害者による損害賠償請求の実効性確保~債務名義の取得,債務名義に基づく回収に向けて~」の報告

弁護士 森 一恵

1 2023年10月20日,第71回中部弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウム「犯罪被害者による損害賠償請求の実効性確保~債務名義の取得,債務名義に基づく回収に向けて~」が,三重県桑名市のホテル花水木で開催された。


2 シンポジウム前半では,損害賠償請求の実情や具体的事例について基調報告がなされ,その後,前明石市長・泉房穂弁護士により,「犯罪被害者の損害回復に必要な支援とは」の基調講演が行われた。泉弁護士からは,被害者支援のポイント,明石市の犯罪被害等の権利及び支援に関する条例の特徴について解説が行われた。犯罪被害者支援は「すべての人のため」の施策で,「社会(行政)」も責任を果たすべきこと,被害者に近い行政である地方自治体こそ「寄り添える支援」に適していること,明石市の条例では,被害者の権利利益の保護,総合支援,二次被害防止を特徴としていること等を力強く説得的に語っていただいた。


3 後半では,泉弁護士,琉球大学法科大学院教授・齋藤実弁護士,被害者ご遺族・寺輪悟氏,コーディネーターにより,犯罪被害者の損害回復及び経済的補償についてパネルディスカッションが行われた。
 齋藤弁護士からは,北欧の犯罪被害者支援について視察を踏まえた報告が行われた。スウェーデンでは犯罪被害者庁により立替払,強制執行庁により求償が,ノルウェーでは暴力犯罪補償庁により立替払,回収庁により求償が行われている等の充実した犯罪被害者支援や補償について,興味深く拝聴した。日本においても,犯罪被害者庁を創設すべき必要性を実感した。
 寺輪氏は,被害者ご遺族は事件後も幾度となく苦しまなければならないこと,社会の意識を変えるきっかけはないかと,当時の三重県知事に,犯罪被害者やご遺族を支援する条例の必要性を記した書簡を送ったことを切実に語られた。寺輪氏の活動をきっかけに,平成31年に三重県犯罪被害者等支援条例が制定され,都道府県では初の見舞金制度の運用が開始された。現在では,三重県内のすべての自治体で被害者支援の条例や要綱が制定されるに至っている。 


4 犯罪被害者や被害者を支援する弁護士は,①損害賠償請求の債務名義を取得するまでの主張・立証の困難,②債務名義を取得した後,強制執行して回収し,損害を回復しなければならないという困難と2つの困難を乗り越えなければならない。本シンポジウムをきっかけに,国による裁判手続費用の援助,犯罪被害者等補償法の制定,損害賠償請求の立替払制度を含めた条例の制定など,犯罪被害者の損害回復の実効性を確保し,十分な経済的補償を実現するための法制度が整備されることを強く願う。

以上





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