明けましておめでとうございます。
集団的自衛権行使を容認するという憲法9条解釈変更の閣議決定からは7年が経ちました。このまま、解釈変更が維持されることへの危機感は増すばかりです。
森友学園、加計学園、桜の会、検察庁法改正などなど、ここ数年の自民党の悪政は枚挙に暇がなく、それでも昨年10月31日の衆議院議員選挙では政権交代とはなりませんでした。岸田政権は安倍政権、菅政権の悪政を顧みることなく、新資本主義という富裕層・法人優遇政策をただ推し進めようとし、将来的な消費税増税の気配も漂わさせており、気が抜けない状況が続きます。
今後も、当事務所は、憲法9条の平和主義を擁護しつつ、間違った政治により市民の基本的人権が侵害されることがないよう、裁判と裁判外の諸活動を通じて奮闘する所存ですので、本年もよろしくお願い申し上げます。
弁護士 石坂 俊雄
風子:爺、私の友人から、相続した土地があるけれでも、不便で管理費用がかかるので国に渡すことが出来ないかと相談を受けたの。昨年、法律が制定されたので、いらない土地を国に渡したいと考えいるようだけれども、そんな法律が出来たの。
爺 :うん、昨年の4月21日成立し、同月28日に公布され、施行は、公布の日から2年以内となっている相続土地の国庫帰属に関する法律のことだね。
風子:なぜ、そんな法律が出来たの。
爺 :それは、風子の友達のように相続したが、その土地がある地域に居住もしていないので、管理はしたくないという人が増えて、不明土地が増えてくるのなら、国が管理するかということになったからさ。
風子:どんな土地でも国がもらってくれるの。
爺 :いや、相続をした土地に限られることと、いろいろな条件が付いていて、簡単ではないのだ。
風子:どんな条件が付いているの。
爺 :次のような土地は、国は受け手取らないよ。
①建物ある土地、②担保権及び使用収益権がついている土地、③通路その他の他人よる使用が予定されている土地、④汚染されている土地、⑤境界が明らかでない土地は、だめなのだよ。
だから、更地で境界が決まっていて、担保もなく、きれいな土地でないとだめなのさ。
風子:それ以外は、条件はないの。
爺 :うん、①通常の管理又は処分に過分の費用又は労力を要する土地はだめで、②崖がある土地も崖の管理に費用がかかるからだめだね。
風子:土地を国に渡すと時に費用はかからないの。
爺 :国に管理費を納めなければならないよ。その基準は、管理に要する費用として、10年分の負担金を支払うことになっているよ。現在では、原野は20万円、宅地は80万円と言われているが、変わるかも知れないね。
風子:すると、国が引き取ってくれる土地は、更地で隣との境界もはっきりしていて、隣地とのもめごとがない土地でないとだめなのね、そんな土地なら余り問題がないから、国に渡さずに自分で管理する相続人の方が多いのでない。
爺 :そんな感じがするね。
風子:爺、昨年の下半期は、どんな大会に出たの。
爺 :夏に乗鞍岳の畳平まで自転車で登る大会は参加する予定だったんだが、コロナウィルスで中止になったので、どこの大会にも出てないよ。
風子:それは残念ね。今年は、いろいろな大会に出られるといいわね。
弁護士 村田 正人
もと相生町自治会長は、津市補助金の詐欺事件4件で起訴され有罪判決を受けた人物 であり、津市職員に対する土下座、丸刈りの強要などの不当要求行為を行っていた者である。もと自治会長は、平成26年秋ごろから、敬和地区で持ち去りが多いため、資源物のゴミ出しの日にパトロールを実施してほしいと要求しはじめた。自治会長の要求により、津市環境部は、平成24年1月から職員によるパトロールを強化した。市職員によるパトロールは、1回あたりの出勤車両台数は4、5台、職員8人ないし10人で、前夜は午後6時から午後9時まで、当日は午前5時30分から午前8時まで、古紙類と金属を対象としてパトロール回数を上げて実施することとなった。しかし、パトロール回数を上げたため、環境政策課資源循環担当職員だけでは対応できなくなり、環境部長をはじめ、環境政策課職員、環境保全課職員、環境事業課職員、環境施設課職員、新最終処分場建設推進課職員の応援が必要となり、環境部あげての取り組みをせざるを得ない状況に追い込まれた。このような状況のもと、自治会長は、平成27年2月ころ、「全部のパトロールを今後も市職員だけで継続していくと大変だろうから、自治会委託にしてはどうか。」と持ちかけ、自治会委託方式を採用するよう執拗に求めた。その一方で、ゴミ収集に関する苦情を申し立て、また、連日、知人男性が傍若無人に大声をあげては環境政策課長との面談を強要した。このような経緯の中、環境政策課長の丸刈り事件、環境部長の土下座事件も起きた。つまるところ、津市の資源物持ち去り防止パトロールの自治会委託は、不当要求行に屈して採用された事業であった。
津市は、平成27年7月1日から令和3年2月12日までの間、相生町自治会との 間で、資源物持ち去り行為防止パトロール業務委託契約を締結したが、パトロール業務は、車両1台当たり自治会員が2人1組で乗車して行うものとされ、一時集積所にごみ出しされた新聞と雑誌を運搬車で運ぶ仕事であった。津市が、上記期間に百五銀行津市役所出張所の相生町自治会環境部会名義の口座に振り込んで支払った委託料の総額は5284万5015円にのぼる。
ところが、自治会委託とは名ばかりで、非自治会員の作業員がパトロールに従事したり、作業員1人でパトロールしたり、津市職員を動員してパトロールするなど「したい放題・やりたい放題」を繰り返し、自治会委託の名のもとに総額5284万5015円を津市は騙し取られた。津市は、このうち2912万5637円をもと自治会長に請求して津地裁で裁判中である。
しかし、多額の公金の流出は、もと自治会長だけの責任ではない。もと自治会長の不当要求行為を恐れ、パトロールが適正に行われているかどうかを検査もしないまま、多額の業務委託費を支払い続けてきた津市職員にも責任がある。なによりも、職員が、もと自治会長の不当要求行為に右往左往していることを漫然と見過ごしてきた津市長前葉泰幸の責任は大きい。自治会委託のパトロール事業は、全国どこにも前例のない異例の事業である。オンブズマンを自負する津市民は、津市長前葉泰幸をはじめ、パトロール事業の財務会計行為を決済した津市職員に対し、津市が被った損害5284万円余を賠償させるべく住民訴訟を提起している。
弁護士 伊藤 誠基
死刑制度廃止のための動きが活発化
今、弁護士会を中心に死刑制度廃止に向けた動きが活発化しています。
ところが、世論調査をすれば、日本では死刑制度に賛成する意見が多数となっています。
殺人罪など重い罪で死刑判決を受けた人がえん罪を訴えている場合などでは、多くの方々は安易に死刑にすべきではないと考えるでしょう。
他方、近時の集団殺人事件などのニュースを目にすると、凄惨な犯行に身震いし、犯人は死をもって償うべきだという意見が多くなるのももっともなことです。
弁護士の間でも、死刑制度を廃止することに強く反対する人たちがいます。
ではなぜ世論とは逆の動きが出てきているのでしょうか。
数々の死刑制度廃止決議
日本弁護士連合会では毎年人権擁護大会を全国各地の弁護士会で持ち回りで開催しています。2016年10月福井市での大会では「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を決議しました。
これまでは死刑制度を考えるというスタンスで検討を重ねてきましたが、この宣言により初めて死刑制度を廃止するという方向に舵を切っていくことが確認されました。
これを皮切りに各地の弁護士会でも死刑制度廃止の決議が相次いでいます。
現在確認されているところでは、滋賀、宮崎、札幌、大阪、島根県、埼玉、福岡県、東京、広島、愛知県、仙台、神奈川県、東京第二の13弁護士会です。
大都市の弁護士会の大半は決議を挙げているわけですが、全都道府県の弁護士会までには及んでいません。当地三重弁護士会もその一つです。
それだけ法律家の中においても苦悩があることを物語っています。
しかし、それでもなお、死刑制度は廃止すべきだと考えます。
冤罪事件は絶えない
殺人罪などの重罪は今では裁判員裁判といって、一般市民から抽選で選ばれた裁判員が裁判官と一緒に審理することによって司法に参加する制度があります。時には死刑判決が下される場合があります。
それでも、神ならず人が裁きますので、裁判官であろうが、一般市民であろうが、冤罪を確実に防ぐ手立てはありません。
無実の人が死刑になる恐れは死刑制度がある以上避けられません。
実際にも、過去死刑確定事件で再審無罪となった事件は4件あります。
最近では、死刑判決を受け確定した袴田巌さんが再審請求を起こし、いったん再審開始決定を受けながらも検察側の抗告で争いが続いている再審事件があります。
久居事件の取り組み
私自身、平成6年三重県内で発生した2件の強盗殺人事件で一審津地方裁判所で死刑判決を受け、平成19年最高裁で確定した濱川邦彦さんの死刑再審事件(久居事件)を担当しています。
濱川さんは逮捕時から一貫して無実を訴えておりましたが、共犯者とされる人物の自白により有罪認定されてしまったものです。共犯者の自白で有罪になりその後無罪となった事件は過去何件か報告されています。
久居事件では現在でも共犯者の自白の信用性を崩すための証拠を集め続けています。その間死刑が執行されてしまえば取り返しがつきません。
犯人が罪を認めている場合でも、死刑にしてしまえば、事件の真の背景など検証する余地がなくなってしまいます。重大事件であればあるほど死刑で全てを終了させてしまってよいのでしょうか。
国際的潮流は死刑制度廃止です
国際人権団体の調べでは、世界198か国のうち、死刑廃止国は142か国、存置国は56か国です。存置国でも、実際に執行したのは20か国程度にすぎません。
ヨーロッパのEU加盟国では、死刑制度を廃止しないと加盟できないことになっています。イギリスもフランスもドイツも死刑制度はありません。
先進国グループであるOECD加盟国37か国中死刑制度を存置しているのは日本、韓国、米国の3か国のみです。
そのうち韓国は死刑判決があっても執行していません。米国でも死刑廃止した州は半数近くに達しています。
しかも、日本は国連人権理事会、自由権規約委員会、拷問禁止委員会から死刑廃止に向けた行動をとるよう勧告を受け続けています。
経済でも科学技術でも一歩先を走っていたはずと思い込んでいたわが日本は今や人権でも後進国と揶揄されても仕方ないところまできています。
死刑に代わる制度と被害者支援の必要性
死刑廃止を訴えても、被害者遺族の心情には最大の配慮が必要であることも忘れてはならないと思います。
日弁連では死刑に代わる刑罰の検討を進めていますし、ご遺族の支援を制度的に整備していくことは大変重要なことです。
最後に死刑をなくせば凶悪犯罪が増えるのではないかと心配されている方がおられます。しかし、その懸念には及びません。死刑制度が凶悪犯罪を抑制するという考えは死刑制度に賛成する法律家でもとっていません。死刑制度を廃止した国で殺人事件が増えたという実証がないからです。一方で死刑制度がある日本でも集団殺人事件が起こりうるのです。
死刑廃止の持論
死刑制度は哲学や人権問題と密接にからんでいます。それだけに様々な考え方が出てきます。
持論を言えば、国家であれ、国民であれ、およそ人の生命を奪うことはできない、それは人がこの世に生を受けたときから、ただその事実のみから人権を保障するとしている日本国憲法の人権思想によるものだと考えられるからです。
もちろん、不正な人身攻撃を受けたときこれを守るための正当防衛による反撃は許されます。
しかし、死刑は死刑囚から国民国家を守るために執行されるものではありません。
その理由があるとすれば怨念を晴らすこと以外は考えられません。見方によれば正義感に通じるものがあります。
それでもなお個人的には、声高に凶悪犯にも人権があるというつもりはありませんが、やられたらやり返すという応報感情は素朴ではあっても、人権思想の高みにある日本国憲法の精神にはそぐわないと思います。
死をもってする報復を許すような殺伐とした社会にはしたくないということです。
弁護士 森 一恵
2021年1月22日に核兵器禁止条約(TPNW)条約が発効した。核兵器禁止条約の署名国・批准国は2021年9月24日時点で,署名国86か国,批准国56か国となっている。2022年1月には再延期後の核不拡散条約(NPT)再検討会議が,3月には核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会合が開催される見込みである。
台湾有事を想定した安保法制の運用や,自衛隊による敵基地攻撃能力の保有・強化など,憲法9条の恒久平和主義の理念に反する情勢下において,NPT再検討会議及び核兵器禁止条約第1回締約国会合の開催は「核兵器も戦争もない世界」を実現する上で,画期的な一歩となるものである。
核兵器禁止条約は,前文において,核兵器が二度と使用されないよう保証するための唯一の方法は,核兵器の完全な廃絶であるとし,被爆者及び核実験の被害者の苦痛と損害に留意し,核兵器の法的拘束力のある禁止こそ,核兵器のない世界の達成及び維持に向けた重要な貢献となること,核兵器のない世界の達成及び維持は,国家的・集団的安全保障に資する最高の地球的公共善であると規定している。また核兵器禁止条約は,第4条において,核兵器保有国にも条約への加盟の道を開く仕組みを規定している。日本は,核兵器禁止条約への署名・批准により「核兵器も戦争もない世界」の実現を目指すべきである。
ところが,日本政府は,NPT体制と矛盾抵触する等として,核兵器禁止条約に署名も批准もしていない。日本政府の態度は,アメリカの核の傘に依存するという核抑止論に基づくものである。このような日本政府の態度は,核兵器の使用がもたらす破滅的な人道上の結果に向き合っておらず,唯一の戦争被爆国として許されるものではない。
核兵器禁止条約と核不拡散条約とは矛盾抵触しない。むしろ,核兵器禁止条約は,核軍縮に向けた効果的な措置について,交渉を行う義務を課す核不拡散条約第6条の履行を後押しするのであり,両者は補完関係にある。
現に日本と同様アメリカの核の傘に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国においても,核兵器禁止条約を肯定する新しい動きがみられる。ドイツとノルウェーは、核兵器禁止条約締約国会議にオブザーバー参加することを表明している。
日本政府は第76回国連総会(2021年)において,核兵器廃絶決議案「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」を提出し,「核兵器の全面的廃絶への実践的なステップ及び効果的な措置の重要性を強調」,「国際的な緊張緩和,国家間での信頼強化及び国際的な核不拡散体制の強化等を通じ,第6条を含むNPTの完全で着実な履行にコミットしていることを再確認」等としている。核不拡散条約第6条の完全で着実な履行を真摯に追求するというなら,むしろ日本政府は,核兵器禁止条約に署名・批准すべきである。
核兵器禁止条約と核不拡散条約が相互補完して,一日も早く「核兵器も戦争もない世界」が実現するように,NPT再検討会議及び核兵器禁止条約第1回締約国会合の開催に期待したい。
以上