能登半島地震から、半年が経過しましたが、復旧はおろか、建物の解体、道路の修復、水道の回復もほとんど進んでおらず、地震直後とあまり変わらない状況です。
半島という地理的な問題がありますが、政府のかかわり方はあまりに弱いと言わざるを得ません。
岸田政権は、国会の議論を飛ばして、自衛隊と米軍の一体化を進め、防衛費を増加し、社会福祉費を削減してきています。
自民党は、政治資金パーティーと裏金問題を契機として、政治資金規正法を改正しましたが、金権腐敗の温床となっている企業・団体からの政治資金の禁止をネグレクトしており、全く不十分な改正です。
世界に目も移せば、ロシアがウクライナに進行して2年が経過し、イスラエルのガザ地区への無差別攻撃は開始して10か月が経過していますが、停戦の見通しはたっておりません。
英国の総選挙では、労働党が政権を奪回し、仏国の国民会議選挙では、左派連合が第1党となりました。歴史はらせん状に進歩していくように見えます。 このような状況な中で、私たちは、これからも平和の世界を求めて皆様と一緒に努力して行く所存です。
2024年盛夏
弁護士 石坂 俊雄
風子:爺、6月19日に国会を通った日本番DBSて何のこと。
爺 :これは、英国の制度をまねたもので、DBSは、「Disclosure and Barring Service」で日本語に訳すと「前歴開示、前歴者就業制限機構」ということだよ。簡単にいえば、学校や保育園などが、人を雇うとき性的犯罪歴のある人の犯歴の開示を国に求めて、前歴がある人であることが分かると子どもと接することを制限することだよ。正式な法律の名称は、「学校設置者及び民間教育保育事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」と長いので、こども性暴力防止法と言っているね。
風子:どのような仕事をしている人が前歴を調べられるの。
爺 :行政庁の監督を受ける小中学校、認定保育園、幼稚園などが職員を採用する際に性犯罪歴がないかの確認をすることが義務化されよ。民間の塾やスポーツクラブ、学童などは、任意ということになるが、認定を受ければ、義務化されるよ。
風子:例えば保育園は、どのような方法で性犯罪履歴の確認をするの。
爺 :保育園に就職を希望する人は、こども家庭庁に戸籍謄本を提供し、保育園は同庁に前科照会を行うが、こども家庭庁は、前科情報を管理していないので、法務省に前科照会をすることになるのだ。前科があることが分かれば、こども家庭庁は、本人に「犯罪事実確認書」の内容を通知し、この通知に基づき、本人が2週間以内に採用を辞退すれば、保育園に前科情報は送られないことになるよ。
辞退しなければ、「犯罪事実確認書」が保育園に送られ、保育園は、採用をしないか、採用をするにしても子どもと接触する部署の仕事に付けたらいけないこととなるね。
風子:この制度は、新規の採用だけで、現職の人には関係ないの。
爺 :いや、現職の人にも適用され、その際には、直接、保育園に「犯罪事実確認書」が送られるので、保育園は、配置転換や退職勧奨をすることになるね。
風子:子どもを性犯罪から守ということからすると良い法律のようね。
爺 :うーん、でも問題もあるのだ。塾や学童などが認定受けて前科照会が義務化されると民間の業者に前科情報という個人情報の中でも最もセンシティブ情報が伝わってしまうことになるが、それよいのよいのか。
性犯罪者の9割は初犯であることからすると、前科情報を照会しても、前科履歴は出てこないので、予防にならないのではないか等の問題がある。
更に、刑法では、刑の執行後、最長で10年を経過すれば刑が消滅する(刑法34条の2)という規定があるが、この法律では、20年間、情報の開示を求めることができることになっている。
性犯罪者で再犯をする人もいるが、1回の犯罪後は、真面目に働いている人もいることが考えると犯罪者の更生を妨げることにならいかなどだね。
風子:子どもに対する性犯罪の卑劣さ、被害の重大さを考えると、再犯を犯さないためには、どうしたらよいのかと言う観点から検討しないと、予防の実効性が問われるわね。
ところで、爺、今年はどんな大会の出たの。
爺 :自転車でしまなみ海道を100㎞走るとか、福井に三方五湖周辺を120㎞走る大会に出たが、最近は腰の状態が芳しくないので、要注意だね。
弁護士 村田 正人
津地裁は、令和6年6月6日、松阪市内の金属スクラップ業者に対し、隣家との敷地境界線上において、5%時間率騒音レベル(90%レンジの上端値)(L5)で65デシベルを超える騒音を発生させて操業してはならないとの判決を言い渡しました。判決は、騒音の差止めとともに、慰謝料と物的損害として、原告4名に対し、総額679万円の支払いを命じました。また、業者が騒音防止のためと称していた廃コンテナを2段積みした構造物を、倒壊のおそれがあるとして撤去を命じまた。
裁判は平成29年に始まり、判決まで実に7年を要しました。その間、原告ら家族は、松阪市と三重県環境保全事業団が使用しているのと同じリオン製の騒音測定器を使って、騒音測定を続けました。また、自宅の高所から業者の違法操業の様子をビデオで撮影し続けました。監視の結果、L5で65デシベルを超える騒音を発生するのは、業者がトラックの荷台に金属スクラップを積んで重機で叩きつける時や、運搬車や保管場所に積み上げ積み下ろしをして重機を稼働させているときであることが証明できました。
業者は、騒音の原因は、市道の自動車騒音とか、雨風の騒音であると言って責任逃れをしようとしました。しかし、市道の交通量が多いのは朝夕の通勤時だけであり、昼間は交通量も少なく閑散としているため、とても自動車騒音によるものとは言えないことは明らかでした。雨風の自然現象も騒音計に影響をするようなことはありませんでした。
L5の意味については、なかなか裁判所の理解を得にくいところでしたが、音響学の専門の先生のご指導を受けて、その意味を裁判所に理解してもらうことができました。判決後、業者は控訴をする一方、事業場や動産を売却して強制執行を免れようしており、騒音被害のない跡地になるのか、損害賠償の被害回復ができるのか、最終的な解決はまだまだです。
裁判に7年間も要したのは、青空操業をしている金属サイクル業者の騒音や振動が野放しであり、行政の改善命令や措置命令で直接規制する法律や条例が三重県や松阪市にはないためです。松阪市がした騒音測定は1回だけであり、業者は松阪市の測定が済むと騒音を出し放題でした。1回の測定だけでそのあとは放置するようなことでは、とても市民の生活や健康を守れません。今後は、裁判によらなくても、県や市が騒音や振動を出し放題で操業している金属スクラップ業者を、直接規制することができる条例の制定が必要であると考えています。
(注1)L5とは、10分間の騒音測定値を高い方から並べて5%のところに位置する数値のこと。等価騒音レベル(時間平均値)と混同してはならない。
(注2)金属スクラップは有価物とされ、廃棄物処理法が適用されないため、千葉市では、全国初の「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例」を制定し、令和3年11月1日から施行して、業者の義務を定めています。
弁護士 福井 正明
これは、数年前に米国製のキットから制作したWACO-UPF7の5分の1サイズのモデルです。初飛行の際、通常の複葉機と違う鈍重な癖があることに気づき、暫くお蔵入りになっていました。今年になって、この手の機体の癖への対処法を理解したことにより、よく飛ばすようになりました。
「Aviation Heritage」(Net)によれば、アメリカの複葉機の老舗「WACO」社が1937年から1942年にかけて製造した機体です。それまでは同社の制作する複葉機は、一機一機受注生産する高価なものであったのに対し、本機は、複葉機の時代の終焉を迎えながらも、大量生産方式により、練習機を600機も作ったということで、皮肉にも、「画期的技術によってではなく、その製造タイミングが普通ではないことで有名」と言われています。
当時は全金属製の単葉機の始まりの時代で、練習機とは言え、この機体はやや時代遅れの感があります。
当時、米国海軍は、練習機として、開放型二座席を備えた複葉機を希望していましたが、他方、航空母艦の甲板に「ドッカン」と着艦しても壊れない頑丈な機体であることも求めていました。しかし、UPF-7はそれまでのWACO社の伝統であった軽量の鋼管羽布張りを採用しており、脚の構造も強化はしたが、浅い沈下角の着陸を前提としており、「ドッカン着艦」のような乱暴な使用には向いていなかったので、UPF-7は練習機として制式採用されませんでした。
売れない多数の在庫を抱えたWACO社にとっては経営破綻の危機であったが、「捨てる神あれば拾う神あり」で、当時安価な軽飛行機が大量に発売され、米国は空前の「自家用飛行機」ブームにあり、全米の飛行機教習所において、複葉複座練習機は引く手あまたの状況にありました。
かくて「WACO」社は、飛行機教習所に「UPF-7」を大量に供給し、結果、「UPF-7」は全米に広まり、この機体で練習を重ねて飛行免許を取得したパイロットが急増し、引退後も「UPF-7」は大切に動態保存され、今でも多数が飛んでいます。
さて、UPF7とは何を意味するのか。WACO社の機体は3文字や2文字のアルファベットと数字で登録されています。このアルファベット文字の意味は神秘的です。 「U」は「コンチネンタル社の220hpの7気筒星形エンジン」、「P」は、トヨタで言えば、「クラウンの型式」とか「レクサスの型式」というようなもので、機体の全体の特色をカテゴリー的に示しているものです。中身を言えば、「主翼は上翼は上反角なし、下翼はやや強い上反角あり」、「胴体は前席に2人収容が限度で、やや細め、垂直尾翼や水平尾翼の形状はそれまでとは一線を画する特色ある形(口で表現できない)、脚は幅を広くした強化版」と言うようなことらしい。「F」は、「前後2座席の開放型コックピット」を指します。
この機体の外に、私が最も信頼しているのが、写真の黄色の「WACO-YMF5」です。「WACO」社は戦後間もなく飛行機の製造から撤退しましたが、1983年から「Classic Aircraft Corporation」(2011年から現在名「WACO」社)によって「WACO-YMFシリーズ」の製造が再開されました。エンジンと型式は昔のものを踏襲していますが、搭載している電子機器や安全装置は最新の機器を装備しています。「Y」は「ジェイコブズ225hp7気筒星形エンジン」、「M」は「Pよりやや大きな胴体、即ち、前の席に3人まで乗れ、主翼は上翼下翼とも緩やかな上反角があり、水平尾翼、垂直尾翼ともP型より広い面積を有する(見た感じでは30%拡大)」です。
模型はいずれも5分の1サイズです。上翼幅72インチと同じサイズ、搭載エンジンもSaitoFA182TD(2気筒30CC)と、UPF7とYMF5は同じエンジンを搭載します。全備重量もほぼ同じ、UPF7(7,7Kg)YMF5(7.1Kg)です。
なのに飛び方がずいぶん違います。それは、UPF7はYMF5に比べて復元力が弱く、角度の浅い大きな半径のターンしかできず、漫然と深い舵を切り続けていると、切った方に滑り落ちる「らせん降下」に陥り、墜落の危険が生じる特性があるということです。
レーシングカーやバイクを例にすると、カーブで舵を切ったとき、舵を切った方向に傾きながらサーキットコースに張り付くようにバンクして走ります。このバンクの角度は回転の時の遠心力と内側に落ちていこうとする重力が釣り合っている状態を示します。
飛行機の場合も同じで、このバンク角を維持しようとする力は、主翼の左右に設けた「上反角」によって生じます。UPF7はこの上反角が主翼の下翼だけにしかないため、上反角のバンク角を維持しようとする力が足りないのだと思います。
実機の操縦を動画で見ても、UPF7は「らせん降下」的なターンの仕方をしていますので、これは機体の持つ危険な癖です。YMF5の場合は、舵を切ったら、そこでサーキットに張り付くように自然なターンに入ります。これは、改良された「M」バージョン、特に、主翼上翼、下翼共に上反角を設定し、水平尾翼、垂直尾翼の形状改良と面積増加により、バンク維持力が大きく改善されているものと理解されます。
以上
弁護士 伊藤 誠基
企業団体献金禁止を棚上げにした改正政治資金規正法が成立
自民党安部派を多数含む90名の自民党議員によるパーティー券を巡る裏金問題に端を発した今回の政治資金規正法改正案が6月19日参議院を通過し、可決成立しました。
自民党、公明党が賛成し、野党は全党そろって反対に回りました。報道でも政治の信頼を回復するか不透明とされたお粗末な幕引きでした。
政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的とすると定める同法の理想とかけ離れた改正法です。
企業団体献金の規制はなぜ必要か
資金力のある企業や団体が自由に政治献金できるとなれば、献金を受けた政党や政治家は、高額献金者の顔を見て政策を立てたり、それらに有利に血税を投入するようになることは事の道理です。
実際にも、自公政権は、大口献金する大企業やその経営者団体の意向に沿って政治を行ってきたのではないでしょうか。
献金が特定の政策に結び付くと賄賂になります。その最たる事件がロッキード事件であったり、リクルート事件でした そのため時の政府は、企業団体献金に一定の歯止めをかけざるを得なくなり、1994年には、政治家個人への献金は禁止になりました。他方で、政治に金がかかると言って、政党助成金制度を作りました。しかし、政党やその支部への企業団体献金禁止には至りませんでした。
パーティ―券の抜け穴
企業団体献金が禁止された政治家個人が考え出したのが、パーティ―券で資金集めする方法でした。パーティ―と称しながら、実際には開催しなかったり、多少の飲食をさせるだけで済ませる実質は献金と同じ金集めでした。
規正法では20万円以下なら献金者名を公表しなくてもよいので、容易に企業、団体からパーティ―券収入が得られたわけです。しかも、ノルマを超えた分は政治資金収支報告書に記載せず、裏金にしていました。
あるいは、企業団体献金を受けた自民党が幹事長など党の役職者に億単位の政策活動費を分配していたようです。これらは規正法に想定されていない資金移動でした。
某元幹事長など在職中50億円受け取っていたのに、使途はブラックボックスであったといいます。
結局、自公政権は、政党助成金と企業団体献金の二重取りをしていたことになります。 改正法は政治と金の問題を解決せず。
改正法は、パーティ―券の購入者名の公表を5万円超とし、政策活動費を正式に認め、使途の領収書は10年後に公開するという政治資金の透明化とはほど遠い内容です。
何より、企業団体献金の全面禁止には触れもしませんでした。
改正の名に値しない、ザル法と言わざるを得ません。
企業団体献金は国民の参政権を侵害
岸田首相は、会社も政治活動の自由があり、それゆえ政治献金も本来自由であると八幡製鉄政治献金事件の最高裁判決を引き合いに出します。
しかし、この後にロッキード、リクルート事件が起こっているのです。
この最高裁判決は全員一致でしたが、一部裁判官から野放図に認めるべきではないという意見が付されていました。更には、一審の東京地裁判決は会社の政治献金は違法とまで断じていたのです。
憲法学会では、政治的行為をなす自由、寄付もその一環とした最高裁判決は行き過ぎた評価というのが通説だそうです(谷口将紀東大教授)。
投票権のない企業が多額の献金で政治に影響を及ぼすことは、国民の参政権を侵害し、民主主義の根幹を揺るがす元凶であることを改めて確認しておきたいものです。
以上
弁護士 森 一恵
第1 はじめに
私は2024年6月16日,四日市市文化会館第3ホールで開催された九条の会よっかいち十九周年のつどいに参加したので,その感想をご報告させていただ きたい。
第2 オープニングについて
オープニングでは,平和紙芝居会長・中村進一さんによる平和紙芝居「尾崎咢 堂物語」が実演された。尾崎咢堂(尾崎行雄)は,憲政の神様であり,世界平和に尽力した三重県にゆかりのある人物である。第二次世界大戦中,軍部の圧力に屈せず,翼賛選挙を批判する言動は,なかなか簡単にできるものではないと思いながら,興味深く,平和紙芝居を視聴した。
第3 記念講演について
記念講演では,作家・活動家の雨宮処凛さんによる「女性活躍社会,ならぬ!女性貧困社会」の対談形式での講演が行われ,私は聞き手として参加した。私から雨宮さんに,貧困問題や困窮者支援に取り組むようになったきっかけ,コロナ禍において貧困が増えた実感はあるか,生活保護制度に対する社会の誤解等,雨宮さんの著書「死なないノウハウ」を拝読して,聞いてみたいと思っていたことを質問させていただいた。
雨宮さんからは,2000年から2006年頃までの自死や生きづらさの取材,プレカリアート(不安定なプロレタリア―ト)という言葉との出会いが貧困問題や困窮者支店に取り組むようになったきっかけであること,コロナ禍において非正規で働く女性が打撃を受け,相談会を訪れる女性の割合や若年層の割合が増加している傾向にあることについて,パワーポイントや動画を示しつつ,説得的にお話いただいた。
また生活保護制度については,ペットがいると生活保護を利用できないとい誤解されているが,ペットがいても生活保護の利用は可能であること,飼い主である人のみならずペットも困窮することのないよう「反貧困犬猫部」が立ち上げられたことを,分かり易くお話いただいた。聞き手としてお話をうかがいながら,1人で悩まず,遠慮なく声を挙げることが必要であること,困った時にはどこに連絡すれば良いか,どのような支援機関や制度があるかの情報を把握しておくだけでも,安心して生活できることを実感した。
第4 終わりに
十九周年のつどいで取り上げられた憲政擁護,世界平和や貧困対策は,日本国憲法の基本理念(基本的人権の尊重,国民主権,恒久平和主義)を基調とする。私は日弁連憲法問題対策本部委員として,引き続き日本国憲法擁護に取り組んでいきたい。
以上