暑中お見舞い申し上げます。
新型コロナは本年五月から感染症法の分類で二類から五類に引き下げになり、一律の感染症対策が求められなくなっています。三年以上に及ぶ様々な制約により生活や仕事のスタイルが変わってしまいました。
感染症は、日常の生活活動に打撃を与えただけでなく、私たちの暮らしや経済に深刻な事態をもたらしました。非正規で働く人たちが職を奪われ、その中でも外国人労働者が雇止めに遭い、真っ先に雇用調整の犠牲になったりしました。
新型コロナ後の今、国民は物価高の苦境に喘いでいます。賃金上昇率を上回る状況が何年も続き、世界の中で日本だけが賃金が低い水準に留まっていると言われています。
そんな中、政府は先の通常国会で、軍事費を大幅に引き上げ、その財源を、増税に加えて、こともあろうか東北大震災の復興特別所得税、国立病院機構の積立金にまで手を付ける法律を通してしまいました。軍事費を増大させると日本の軍事力は世界第三位となります。憲法九条を踏みにじるものです。秋には衆議院の総選挙が予想されています。しっかりした目で一票を投じたいものです。
今夏も所員一同、皆さまの期待に応えるべく奮闘してまいりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。
2023年盛夏
弁護士 石坂 俊雄
風子:爺、来年の秋には、健康保険証が無くなり、国民は皆、マイナカードを持ち、そのカードに健康保険証が紐付いていることになるとのことだけで、本当にそうなるの。
爺 :今の紙の健康保険証は、毎年、市町村から各個人に健康保険証が送られてくるので安心だね。病気になったときに、保険証を持っていけば、自己負担は1割~3割で治療が受けらるよね。
風子:そうよね。市町村から健康保険証は送られてくるので、便利であると感じているわよ。政府は、なぜ、健康保険証なくそうとしているのかしら。
爺 :政府の説明は、健康保険証をデジタル化すれば、どこの病院で、どのような治療を受け、どんな検査をしたのかが分かり、処方されている薬も分かるので、2重の検査や薬を出すことが防げるからだと言っているよ。また、マイナポータルから入れば、自分の治療経過も直ぐに確認できるので、患者にもいいことで、ムダな治療が減らせると考えているのだよ。
風子:でも、今でも、薬を沢山飲んでいる人は、お薬手帳をもっているので、のみあわせが悪い薬を処方されることはないわよね。
爺 :今、マイナカードは、多くの問題が出ているよね。健康保険証でいえば、病院でマイナカードをかざしても読み込みができないために、患者が本当に健康保険の資格を持っているのか、確認できないとして、治療費は、自己負担分だけではなく、10割負担をして下さいと病院から言われ、病院の窓口で言い合いになってるよ。
風子:他人の保険証と紐付けられている人もいたわよ。このような場合は、誤って薬を処方される可能性があり、怖いわね。
爺 :マイナカードに紐付けられた健康保険証が窓口で機能しない以外に、老人施設に入っている人は、そもそもマイナカードを簡単に取得できないよ。
風子:どうして。
爺 :マイナカードを取得するためには、写真を撮ってそれをカードに貼り付けなければならないが、寝たきりの人は写真は、枕などが写り機械がその人を同一人であると認識できないようだね。
風子:寝たきりの人は、役所に行くこともできないわね。
爺 :更にデジタルの健康保険証は、マイナカードと紐付けられているのだから、施設はこのカードを預からないと入所者を病院に連れて行くことができないし、マイナカードを使うためには暗証番号が必要なのでその管理をしなければならない。だから、施設の8~9割は、このような個人番号が記載してあるマイナカードを預かり管理することは不可能であると言っているよ。
風子:マイナカードに紐付けられた健康保険証は、一回作れば一生使えるの。
爺 :ところが、健康保険証は、5年毎に更新手続きがいるし、マイナカードは、10年毎に更新手続きがいるのだよ。
風子:すると、5年毎に今回と同じようなことが起きる可能性があるのね。
爺 :その人に取っては5年毎だけど、人により取得した時期が異なるので、毎年、書き換えがあり、しかも、紐付けは、デジタルではなく、アナログで人がするから必ず間違いがあると考えておいた方がいいよね。
風子:そうね。そうならば、来年秋に紙の健康保険証をなくすのではなく、もっと時間をかけて、どのような方法が良いか、それとも止めるか考えた方がいいわよね。
爺 :そのとおりだね。
風子:爺、ところで、今年はどこかの大会にでたの。
爺、出たよ。志摩のトライアスロン大会に出て、75歳代のカテゴリー で2番だったよ。
風子:それはおめでとう。でも後期高齢者なのだから無理しないでね。
弁護士 村田 正人
インターネットは、世界中のコンピュータを接続するネットワークだが、クラウド(雲)という言葉が用いられるので衛星通信を使用していると誤解している人がいるのではないだろうか。実際は、光ファイバーを内蔵した海底ケーブルが通信の主流である。三重県志摩市の安乗地区にはNTTコムの陸揚げ局があり、甲賀海岸にはKDDIの陸揚げ局がある。10年前の東日本大震災では、北茨城(茨城県)、南房総(千葉県)など関東の陸揚げ局では多数のケーブル切断事故が起きた。幸いにして、志摩市の陸揚げ局の海底ケーブルは切断被害を免れた。地理的優位性からKDDIは甲賀地区に数本、NTTコムは安乗地区に数本の光海底ケーブルを陸揚げしている。
問題は、ケーブルが共同漁業権の漁場に敷設されることである。車エビ(宝彩エビと呼ばれ築地市場でも髙評価)や伊勢エビなどの漁が影響を受ける。このため、NTTコムは平成26年の敷設時に三重外湾漁協(安乗地区)に対し1億7510万円の漁業補償金を支払った。令和元年の敷設時にも、1億7510万円を支払った。また、KDDIは平成27年の敷設時に1億円の漁業損失補償金を支払い、令和元年の敷設時にも1億円を支払った。
これをどのように配分するかであるが、三重外湾漁協は、地元の5人の委員からなる安乗地区漁業権管理委員会に配分をまかせた。管理委員会は配分委員を選んでした。ところで、三重外湾漁協は、大中小の漁協が合併を繰り返してできた三重県で最大の漁協である。地元の安乗地区のことは地元で決める方針はよいとしても、正組合員と准組合員で400名余の組合員の総会(総会の部会という。)を開いて決めるか、それとも5名の管理委員会が選んだ配分委員で決めるのか、どちらが民主的かという問題である。
答えは明らかである。千葉県千倉の漁協では総会を開いて配分を決めたという。総会無視の三重外湾漁協に対して、組合員2名が配分手続の違法と配分の不公正を唱えて津地裁に代表訴訟を提起している。
弁護士 伊藤 誠基
再審法改正の機運が盛り上がっています
再審法とは、刑事裁判で有罪が確定しても、新しい証拠が発見され、無実の罪(えん罪)であったことが明らかなった場合、それを救済するための刑事裁判の手続法を言います。 現在の法律では僅かな条文しかなく、裁判所も手探りで対応しているのが実情です。しかし、それ以上に不利益を受けているのは当のえん罪被害者です。
今年に入ってから立て続けに再審開始が支持された事件が2件ありました。元プロボクサーで、味噌製造会社の専務一家4名を殺害したとして死刑判決を受けていた袴田巌さん、滋賀県日野町で酒店経営の女性が消息を絶ち、他殺体で発見された事件(日野町事件)で無期懲役の有罪判決を受けた阪原弘さんです。阪原さんは再審請求中お亡くなりになり、ご遺族が引き継いでおられます。
これらの再審事件を通じて再審法の不備が指摘されるようになりました。日本弁護士連合会では、昨年再審法改正実現本部を設置し、今年から全国の弁護士会で法改正のための運動に取り組むよう支援を強めています。
再審法の何が問題か
再審法というのは、無実の罪を認定して、えん罪被害者に無罪判決を下すという手続きではありません。あくまで裁判をやり直すかどうかを決める手続きで、やり直し(再審開始決定)が決まれば、本格的な刑事裁判が行われ、そこで無罪判決を獲得することが必要です。しかし、実際上は、再審開始決定が出ればその後の裁判で無罪判決が下されます。
ところが、現状の再審法には、二つの欠点があると言われています。
一つは、証拠開示の規定が存在しないことです。再審開始には新しい証拠を提出することが必要です。ところが、えん罪被害者側で発見することは大変難しいことです。一方で、警察や検察などの捜査機関は、裁判所に提出した証拠以外にも手持ち証拠が多数存在していることがあります。これらの証拠の開示がなされると、新たな証拠の発見に大きな威力が発揮されます。日野町事件では証拠開示で捜査機関による不正が発見され、再審開始決定に大きな影響を与えました。
もう一つは、えん罪被害者が時間をかけて再審開始決定を獲得しても、検察官が不服申し立てして、上級審で争うことができることです。上級審でそれが覆り、何度も再審請求を繰り返すという事態を招きます。名張毒ぶどう酒事件では、2回の決定で再審が支持されたのに未だ決着をみていません。袴田事件でも、検察官の不服申立てによって、2014年に再審開始決定が出たのに、未だ継続中です。検察官の不服申立てを封ずることが非常に重要になってきます。
再審法改正の弁護士会決議
日本弁護士連合会では、1959年から再審支援に取り組み、34件の支援事件のうち18件につき再審無罪が確定しています。
2019年には人権擁護大会で法改正を求める決議、今年に入ってからは、2月に法改正意見書、6月の定期大会では速やかな改正実現を求める決議など、矢継ぎ早に改正運動に取り組んでいます。
また、我が三重弁護士会では、今年5月の定期総会で改正を求める決議をし、7月22日には市民集会を開催し、名張毒ぶどう事件のドキュメンタリー映画(主演仲代達也、樹木希林、寺島しのぶなど)を上映し、講演では大崎事件再審弁護団の鴨志田祐美弁護士に登壇していただきました。
弁護士会のほか、地方自治体の議会でも決議をいただいているところが増えており、注目すべき立法運動に発展しています。
久居再審事件
私たちが取り組んでいる強盗殺人事件のえん罪被害者である濱川邦彦さんは、第三次再審請求をしています。証拠開示を求めていますが、未だ実現していません。濱川さんは35歳の時逮捕され、還暦を超えました。
大崎事件のえん罪被害者である原口アヤ子さんは、6月5日福岡高裁宮崎支部で再審が認められませんでした。過去3回も再審開始が支持されているのに、検察官の不服申し立てで延々と再審が続いています。原口さんは95歳です。
えん罪被害者がどんどん高齢化している中、時間的猶予はありません。一日も早く国会で再審法が改正されることを求めます。
以上
弁護士 森 一恵
本年5月19日から21日まで,G7広島サミット(主要国首脳会議)が開催された。G7広島サミットでは,各国の首脳らが原爆資料館や慰霊碑を見学し,芳名録に「核兵器のない世界」を目指す平和へのメッセージを記帳する,被爆者と面会する,カナダのトルドー首相がG7広島サミット最終日に原爆資料館を再訪する等が行われ,その成果文書の採択に注目が集まった。
しかし実際に採択された「広島ビジョン」では被爆の実相を国際社会に伝えることがなされていないばかりか,むしろ「核兵器のない世界」の実現から後退した内容となっている。
すなわち広島ビジョンは,「我々G7首脳は、1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び 長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った。・・・核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する。」 と「核兵器のない世界」の実現に言及しつつも,ウクライナ侵攻と核の威嚇を行うロシア,核開発を行う北朝鮮やイラン,不透明で有意義な対話を欠いた核戦力の増強を行う中国を名指しして非難し,これらの国々に対抗するため,「核兵器は,それが存在する限りにおいて,防衛目的のために役割を果たし,侵略を抑止し,並びに戦争及び威圧を防止すべき」と核抑止論に依拠している。核抑止論は軍拡競争を招くだけで,核軍縮や核廃絶にはつながらない。これでは「核兵器のない世界」を実現することができない。
また広島ビジョンは,「核兵器不拡散条約(NPT)は、国際的な核不拡散体かの礎石」と言及しつつも,締約国に核軍縮のための誠実交渉義務を定めたNPT第6条については言及していない。日本政府が2022年12月8日の国連総会本会議において提出し,147か国の支持を得て採択された核兵器廃絶決議案(核兵器のない世界に向けた共通のロードマップ構築のための取組)では,NPT第6条の規定を含む全ての面における条約の完全でかつ着実な履行及び同条約の普遍性の更なる向上への決意を再確認するとされていることと比較して,「核兵器のない世界」の実現から後退している。
さらに広島ビジョンは,2021年1月22日に発効した核兵器禁止条約(TPNW)に言及せず,核兵器のいかなる使用も国際人道法に違反することの確認もなされていない。2022年6月21日から23日まで開催された核兵器禁止条約第1回締約国会合には,ドイツを初めとするNATO加盟国の一部がオブザーバー参加し,核兵器禁止条約の理念を共有する考えを示していたことと比較して,「核兵器のない世界」の実現から後退している。
「核兵器のない世界」を実現するためには,世界各国が核兵器禁止条約に署名・批准すべきである。私は粘り強く,戦争被爆国である日本が核兵器禁止条約に署名・批准することを求めていきたい。
以上